開発途上国における、観光開発の「光」と「影」
観光に力を入れる東南アジア諸国
東南アジア諸国は近年めざましい発展を遂げましたが、大半の国ではバンコクやマニラ、ジャカルタといった大都市一極集中が顕著です。そこで国全体での経済的向上を図ろうと、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアなどでは豊かな自然や史跡といった資源を活用して観光立国をめざし、世界中から観光客を誘致しようとしています。観光の発展は途上国に経済効果をもたらしますが、同時に地域社会や環境にも大きな影響を与えます。
旅行者が来れば地域は本当にうるおうのか?
東南アジア諸国の小さな離島には美しい海や浜辺、ひなびた風景に癒しを求め、ヨーロッパから多くの観光客が訪れるようになりました。初めはバックパッカーたちが訪れ、すぐにインターネットで情報が広まり人気に火がつきます。そうなれば巨大資本が目をつけ、半ば強引に大規模なリゾート開発が始まります。「アンダマン海の真珠」といわれるタイのプーケット島には、海を拠点に暮らしてきた歴史を持つシージプシー(チャオ・レイ)という先住民がいますが、急激な開発により住む場所や漁業の場から追いやられました。また、多くの地域住民は土地や海を奪われ、ホテルなどで観光産業の作業員として低賃金で働かざるを得なくなります。観光がもたらす富は地域住民に必ずしも還元されないのが現状です。
持続可能な観光開発を
環境面でも、観光開発により貴重なマングローブ林やサンゴ礁がダメージを受けています。タイの小さな離島ピピ島では、押し寄せる観光客が出す大量のゴミを処理する施設がなく、環境の悪化につながっています。イスラム教や仏教の国で観光客が寺院を半ズボンやタンクトップの軽装で訪ねるなど、文化的な摩擦も絶えません。
今後もLCCやグローバル宿泊予約サイトなどの影響で「穴場」への観光熱は高まるでしょう。国側は穏やかで持続可能な観光開発のあり方を探り、旅行者側には訪れる地域の生活や文化をよく理解する姿勢が求められます。
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先生情報 / 大学情報
奈良県立大学 地域創造学部 地域創造学科 准教授 薬師寺 浩之 先生
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