水素を安全に使うために、「800気圧」を克服せよ!
電気自動車は本当に「エコ」なのか
「環境に優しいクルマ」として、EV(電気自動車)の人気が高まっています。確かにEVは、走行時に二酸化炭素を排出しませんが、エネルギーとなる電気の多くは、化石燃料を燃やす火力発電によって作られています。一方、FCV(燃料電池自動車)は水素と酸素の化学反応で発電するので、EV以上に環境負荷が少ないクルマです。FCVをはじめ水素エネルギー活用の幅を広げるため、水素を安全に保管できる水素タンクの製造技術と、それを長持ちさせるための検査技術の研究が進んでいます。
平地の800倍もの圧力がかかる水素タンク
従来のガソリン車なら、燃料満タンで500km程度は走れます。FCVに約500km走れる量の水素を積載するには、800気圧もの内部圧力に耐えるタンクが必要です。分厚い金属製のタンクだと、重くなり過ぎてクルマの燃費性能が低下します。そこで開発されたのが、「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」を用いた水素タンクです。高剛性・高強度な炭素繊維をいろいろな向きからグルグル巻きに成形し、プラスチックと組み合わせることで、金属を上回る強度と軽さが両立できるのです。
超音波の伝わり方で、内部の状態を検査
軽量・高強度なタンクを作っても、製品としての寿命が短いと、資源や製造に要したエネルギーをムダづかいすることになります。水素タンクの製品寿命をのばすために研究されているのが、超音波を活用してタンクの健全性を調べる「超音波ガイド波検査」という検査です。
人の内臓や、おなかの中の赤ちゃんの状態を調べる検査でも超音波が使われていますが、それらの検査は放射した超音波の反射状態を映像化します。それに対し超音波ガイド波検査では、タンクの軸方向や円周方向に伝搬した超音波の変化の様子から材料内部の状態を調査します。検査によって補修が必要な箇所を早期に発見したり、破損する危険性があるタンクは早めに交換したりすることで、水素タンクが安全に、より長く使えるようになるのです。
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大阪産業大学 工学部 機械工学科 教授 和田 明浩 先生
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