少しずつ、しかし着実に進歩を続ける耐震建築技術

少しずつ、しかし着実に進歩を続ける耐震建築技術

日本の耐震工学は世界トップクラス

建築という学問の中には、大きく分けてデザインとエンジニアリングという2つの分野があります。欧米などでは、建築デザインとエンジニアリングは別に学ぶものですが、日本では伝統的に、両者を合わせて学ぶスタイルをとっています。地震の少ない国では、昔から建築家が自由にデザインした建物を建てていましたが、地震大国である日本では、地震にどのくらい耐えられるかという構造設計という考え方なしに、デザインを考えることはできません。関東大震災以来、およそ100年にわたる耐震工学の研究の歴史を持つ日本の技術は、世界トップクラスと言えるのです。

計測技術とシミュレーションの進歩

耐震建築の基本となっている構造力学という学問は、すでに18世紀頃には確立しており、現在でもその原則は大きく変わってはいません。めざましく変わっている部分としては、「計測技術」の進歩が挙げられます。地震波をより正確にとらえることにより、どんなタイプの揺れがどんな影響を建築物に及ぼすかということがシミュレーションできるようになってきました。また、さまざまなタイプの震動を再現することができる震動台という実験装置が開発され、その上に建築物のモデルを置いて実験することで、耐震効果を検証できるようになりました。

「計算」と「勘」が建築を支える

これほど研究が進んでも、地震の起こり方は千差万別で、被害の出方も予想通りにはいかないものです。建物の骨格の動きなどは、数学的には計算できますが、それ以外の細かい動きには、まだまだわからない部分が多くあります。それだけに、計算だけではなく、設計者の経験に基づく「勘」のようなものも必要とされます。大地震の発生が、近い将来に確実視されている現在、耐震工学の研究はますます重要になってきます。建築の中では地味な分野ですが、耐震工学は文字通り、建築の土台を支える、「縁の下の力持ち」と言える学問なのです。

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先生情報 / 大学情報

工学院大学 建築学部 建築学科 教授 山下 哲郎 先生

工学院大学 建築学部 建築学科 教授 山下 哲郎 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

建築学

メッセージ

あなたは今、なんのためにこんなものが必要なのかなと思いながら、三角関数や、行列、微分・積分などの難しい数学を勉強しているかもしれませんが、それは将来、理科系のものを作る分野に進む人には必ず役に立ちます。特に建築の中でも我々の専門である、地震に強い建物を造る「構造」という分野は、揺れ、振動を扱うので、三角関数をはじめとした、いろいろな数学や物理の式と、それらを統合する能力が必要になります。ですから今あなたが苦労して勉強している数学や物理にも、ぜひまじめに取り組んでください。あとで必ず生きてきます。

先生への質問

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工学院大学は、2017年に創立130周年を迎えた、伝統のある大学です。2019年4月から、専門性を高めた知識を得られるように、先進工学部の「応用物理学科」と「機械理工学科」では各学科を2専攻に分け、きめ細かな学修ができる体制に変わりました。
応用物理学科には応用物理の分野を究める「応用物理学専攻」と宇宙関連分野を学ぶ「宇宙理工学専攻」を、また機械理工学科には従来の機械の知識を学びながらグローバルな視点を養う「機械理工学専攻」とパイロットライセンスの取得をめざす「航空理工学専攻」を設置しました。