音と空間の関係
音は空間に放射されている
楽器の音を分析すると、音は空間に対して1つの方向ではなく複雑に飛んでいることがわかります。すべての楽器にそれぞれの特性があり、それは人間にも同様にあてはまります。楽器や歌のうまい人とへたな人では、発する音のパターンが違うということもわかってきています。
この特性を再現できれば、CDなどでより「本物」に近い音を再生することができるのではないかと期待されています。今の私たちはCDや5.1サラウンドなどで鮮明な音、臨場感のある音を楽しむことはできますが、「本物」の音を再生し、家庭などで楽しむまでには至っていません。
人はなぜ音楽に感動するのか
音の空間の把握には、脳が重要な働きをしています。私たちは地面や壁からの反射音が存在する空間で生活しています。脳の神経がいろいろな方向の音に反応していたのでは、音の方向がわからず、人の声に振り向くこともできません。私たちは反射音を上手く利用して、脳の中でチューニングを行った上で反応しているのです。
コンサートホールなどで聴く楽器の音も当然、壁からの反射音がある状態で成り立っています。歴史のあるホールは、偉大な建築家が脳の中での空間処理をうまく考えて設計したものかもしれません。
また、音楽に涙するのは、脳内の感情を司る領域と音を処理する領域とが強く結びついているからだとも考えられています。
暮らしに本物の音を!
私たちの脳が「本物」と認識してしまう音を再生できたら、どんなメリットがあるのでしょう。それは、まさに自宅に演奏家を招く感覚です。バンドの楽器ごとの音を録音しておけば、好きなミュージシャンを組み合わせて自分だけのバンドを編成することも可能です。あるいは、自分の誕生日にお気に入りの歌手を招いて歌ってもらった気分にも浸れます。デジタルアーカイブとして保存しておき、後世の人が聴くこともできます。「本物の音」の可能性は無限大なのです。
このように、「音」の世界に空間や脳といった科学的側面から迫ってみると、新たな一面が見えてきます。
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愛知淑徳大学 人間情報学部 人間情報学科 教授 牧 勝弘 先生
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