1滴ごとの雨粒から発せられるメッセージを読み取る
よくわかっていない雨の実態
人工衛星が発達し、現在は天気予報や雨雲レーダーに代表されるように気象情報が当たり前のように入手できます。しかし、気象は地形や温度、湿度など複雑な要因が絡み合い、曖昧な点が多い分野です。大気化学モデリングで大気や雲の動きが予測できますが、実際の雲はどこからきて、何を含んだ雨が降っているのかといった大気化学の実態はわからない点が多くありました。気象は刻々と変化しますが、これまではある程度溜めた雨の成分を分析するしかありませんでした。しかし、雨粒1滴ずつを分析できる採取法が開発され、詳細が明らかになりつつあります。
日本の雨に含まれる汚染物質の影響
雲は、大気中の微細な粒子であるエアロゾルが核となって発生します。地球には砂漠などから発生する土壌エアロゾルのほかに、汚染物質である硫酸塩エアロゾル、硝酸塩エアロゾルなどがあります。日本には、中国大陸から大気が流れてきます。中国の大気汚染はひと頃に比べ大きく改善されましたが、今も東南アジアやインドを含め汚染物質が日本に届いていると考えられます。
日本の雨の酸性度は、それほど高くはありませんが,酸性雨は植生や農作物を始め生態系に対して影響を与えます。雨が上がって地面が乾くと、地面に吸着しない汚染物質は再浮上するので、人体への影響が心配されています。
環境の改善には実態を把握することが重要
雨粒を、酸性雨の原因となる硫酸塩と反応する薬剤を含むゲル状に採取することで、1滴に含まれる硫酸塩の濃度がわかり、1滴ずつ異なることがわかります。また、それを降らせる雨雲から雲粒を採集して分析すると、雲粒の一つひとつも汚染物質の濃度が異なることがわかりました。こうしたデータを日本各地や世界各国で同時測定すれば、地球で何が起きているかが解明されるでしょう。それが、地球規模での環境改善につながっていくのです。
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静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科 准教授 南齋 勉 先生
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