地球の重力に抗う、私たちの体の不思議
地球の重力に抗う力
寝たきりの高齢者や重度身体障害者の人たちは、体が重力に抵抗できません。逆にいえば、健康体の人は重力に抗(あらが)うように、いつも体を緊張させながら生活しています。寝ているときも同じです。寝返りは、重力の押さえつけから体を守る動きです。こうした地球の重力に抗い、姿勢を保つための力を抗重力といい、その際に働く筋肉を抗重力筋といいます。
姿勢変形を防ぐ
重度の肢体不自由と、重度の知的障害とが重複した小児を重症心身障害児といいます。彼らに対して気をつけなければならないのが、姿勢です。成長期なので、姿勢が変形すると、体の成長とともに変形も成長してしまうからです。昔は、体の変形は脳障害による神経への障害が原因と考えられてきました。しかし、それは要因の一部で、地球の重力も大きく関係することがわかってきました。寝ている時間が多いので、いわば地球の重力にすっかり体を預けています。つまり重力に抗えず、自分の体を支えられないので、そのままでは体が曲がってしまいます。そのため、肋骨(ろっこつ)や胸郭、骨盤、頭などの下にクッションや道具を挟んだり、体の向きを変えたりします。こうして体にかかる力を分散させ、均等にするのです。
脳も体も、成長している
発達障害児で、無意識に体が動いてしまう子は、体の刺激がうまく脳に伝わっていないことが多いものです。その場合、あえて抗重力を感じさせ、筋肉をコントロールできるよう導きます。例えば力加減がつかめない子には紙鉄砲をどうすればパンと音が鳴らせるか、腕の振り方や力の加減を体感させます。縄跳びも、普通の縄は軽すぎるので上手に回せません。その場合は、ホースに代えてみます。重いですが、「重い」という刺激が体に十分伝わり、それがしっかりと脳に伝わって、ゆっくりとリズムよく跳べる子が増えます。子どもは成長とともにできることが増えますが、それは、体と脳が成長しているからなのです。
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帝京平成大学 健康メディカル学部 作業療法学科 教授 樋口 正勝 先生
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