山に木を植えると、なぜ魚は元気になるのか

山に木を植えると、なぜ魚は元気になるのか

深遠なる水環境

東京の水道管の水漏れの割合、「漏水率」は2011年現在3%で世界一良好です。アジアの主要都市は30%前後で、先進国でも10%程度と言いますから、これは驚異的な数字です。私たちが水を自由に使え、安心・便利・快適に暮らすことができるのは、地中に埋まっている水道管や水源のダムのおかげです。
こうしてみると、世界屈指の水資源管理能力を誇る日本は、水環境の研究でもほかを圧倒していると思われるかもしれません。しかし実際は、わからないことだらけの分野なのです。

海の民が森を育む

例えば宮城県気仙沼には、「森は海の恋人運動」という活動があります。1970年代、海の水質の悪化により名産の牡蠣(かき)が大きな打撃を受けたことをきっかけに始まった植樹活動です。
山に木を植えると川が綺麗になり、魚介類がよく育つことは、なんとなく感覚的にわかる話です。森の腐葉土には食物連鎖の原点となる植物プランクトンを育てる養分があり、それが川によって海に運ばれるという報告がありますし、森の保水能力や水質浄化機能についても、さまざまな分野で研究されています。森と川と海は密接に影響し合っており、豊かな生態系を育むカギとなるメカニズムがあることは間違いないでしょう。しかし、現在の科学のレベルではその因果関係をまだ証明できていません。

自然と人間の共存

水だけに絞るならば、その物理的な動きを予測することは可能です。ところが川や湖沼、海には生物がおり、土砂やさまざまな物質が含まれています。このような生物の動き、物質の移動や化学的な反応のすべてを知り、自然環境や私たちの暮らしにどのような影響が出るのか予測するのは難しいのです。
「ここにダムをつくったらどのような影響が出ますか?」と問われ、「間違いなくこうなります」と断言することはできません。社会に貢献する工学の使命を背負い、水工学など水に関わる分野では、今日も地道な研究が続けられています。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 都市環境学部 都市基盤環境学科 教授 横山 勝英 先生

東京都立大学 都市環境学部 都市基盤環境学科 教授 横山 勝英 先生

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水工学

メッセージ

私はダムや川、河口といった場所において、水の流れ、土砂や物質の動き、生物の生息状況について研究しています。きっかけは、高校生の頃にテレビで見たドキュメンタリー番組でした。「川にダムをつくったことで水の量が減り、霧が発生しなくなった結果、川のそばで栽培しているお茶の葉が硬くなった」という報告に興味をもったのです。
このように、自然環境と人間社会は複雑に関わり合っています。興味があるなら、机上で知識を身につけるだけでなく、実際に現場で触れながら、環境問題の解決に貢献してください。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。