オスとメス、両方に性転換する魚:さかなの社会を読み解く
小さい頃はメス、大きくなるとオスに性転換
魚の暮らしを詳しく調べると、陸上動物には決してみられない興味深い行動が確認できます。屋久島の北西に位置する口永良部島(くちのえらぶじま)のサンゴ礁に、一夫多妻(ハレム)の社会を作るサラサゴンベという魚がいます。一匹のオスが数匹のメスと同居し、すべてのメスと産卵します。この魚は、小さい頃はメスとして卵を産み、大きくなるとオスに性転換し「ハレムオス」になることがわかっています。これは、ハレムから追い払われることなく常に繁殖でき、また、一生涯メスでいるよりも生涯に残せる自身の子どもの数を多くできる仕組みと言えます。同じタイプの性転換はいろいろなハレム魚類で確認されています。
さらに、再びメスに戻るものも
ところが、大きくなってハレムオスになっても、ほかのオスが強かったり、メスを失ったり、都合の悪い状況になることがあります。サラサゴンベに注目してスキューバを用いた潜水調査を行い、魚の行動を追い続けた結果、そのような場合は次のようなことが起こりました。より大きく強いオスとの戦いに負けると、オスはメスの行動をとりはじめ、しばらくすると卵を産みはじめました。つまり、メスに性転換したわけです。オスがメスに戻る能力をもっていることは水槽実験ではわかっていましたが、自然状況下でもオス、メスの両方に性転換することが裏付けられたのです。
状況によって性が変わる
魚にこのような性転換が可能なのは、ひとつには卵を体外で受精させるため、陸上動物のように体内で子どもを育てる仕組みが不要であり、雌雄の構造上の差が小さいという点があげられます。また、魚の雌雄性はホルモンの強い影響を受けています。これは、その時の「状況」、つまり同居個体との社会的な関係を、脳が察知することで、ホルモンのバランスを変え、その個体にふさわしい性を選択できる仕組みとなります。これが性転換につながるのです。魚も実に「社会的」な動物なのです。
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広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 坂井 陽一 先生
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