強弱がつかないチェンバロでバッハはどんな風に演奏したの?
クラシック音楽と鍵盤楽器
今日バッハをピアノの演奏で聴くことは珍しくありません。しかしバッハの時代にはピアノによる演奏はまだ主流とはいえず、主にチェンバロが使われていました。ピアノが弦をハンマーで叩いて音を出すのに対して、チェンバロは鳥の羽の軸を整形したプレクトラムで弦をはじいて音を出す楽器です。プレクトラムが弦をはじく振り幅が小さいので、ピアノのように音の強弱をつけることはできません。また、響きを持続させるためのペダルもありませんでした。旋律をペダルを用いて滑らかに演奏するレガート奏法は、19世紀のピアノの時代になってから盛んになり、反対にチェンバロ時代では、一音一音を微妙あるいは大胆に切り離し、俳優が台詞を明確に発音するように演奏するのが一般的でした。
チェンバロの演奏法
それでは、一般的に「強弱弱」と演奏するとされている三拍子の曲を、バッハはどうやって演奏していたのでしょうか。チェンバロでは強弱はつかないので、音の長さを「長短短」と演奏し三拍子を表現していました。私たちが会話の中で、強調したい部分をゆっくり話すのと同じです。ピアノはメロディを美しく表現することに関しては、チェンバロより長けているといえるでしょう。一方で、チェンバロでは全ての音が主役です。複数のメロディの絡み合いと和音の変化が明確に感じられる楽器なのです。
作曲家と向き合う
バッハと同時代の1700年頃のイタリアで、現代のピアノの発音原理の原型となる楽器は作られました。その後、ショパンの時代には弦をたたく素材が皮からフェルトに変わり、さらに時代が進むと大ホールで演奏できる音量を求めてピアノの中に鉄骨を組み込むなど、さまざまな改良が重ねられました。作曲家は楽器から影響を受け、その楽器に即して音楽を作ってきました。作曲家が実際に使っていた楽器の特徴を捉えると、なぜ楽譜にこう書かれてあるかという作曲の意図が明確になってきます。鍵盤楽器の歴史を学べば、音楽の新たな地平が見えてくるでしょう。
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和歌山大学 教育学部 音楽教育 教授 山名 敏之 先生
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