音楽の「曖昧な部分」が開く、新しい表現

音楽に内在する曖昧さ
音楽には、誰もが気づく「明確な部分」と、背後で音楽を支える「曖昧な部分」があります。メロディーを聴いて美しいと感じるときに、その印象を作り出しているのは、複雑な和音の重なりやメロディーの裏に隠れた対旋律、聴く環境による音の変化など、実は意識しにくい曖昧な要素かもしれません。また同じ曲を聴いても、ある人はメロディーに、別の人は伴奏に注目するなど、聴き手によっても印象に残る部分が違います。音楽を聴いて楽譜に書き取るときも一度で全部を覚えることは難しく、少しずつ記憶を重ねていくしかありません。このように、音楽は一度では把握しきれない豊かな要素を含んでいるのです。
イメージの限界を超える表現
自分の体験やイメージだけを頼りに音楽を作ろうとすると、知っている範囲内でしか表現できません。イメージの外側にあるコンセプトやシステム(仕組み)を導入することにより、より面白い音楽を作ることも可能です。伝統的な音楽を土台としながら、わずか1%でも新しい要素を加えることで思いがけない可能性が生まれます。たとえば半音よりも狭い音程である「微分音」を用いた作品では、震えるような、ゆがんだような特徴的で曖昧な響きが生まれて、作曲者自身も想定していなかった表現が可能になりました。また近年は複合的なメディアの発達とともに、音楽に関わる表現の領域は大きく広がっています。
自由な発想が生む音楽の未来
音楽は「音の建築」とも呼ばれますが、本物の建築とは違って失敗しても誰も傷つくことはありません。作曲では自由な発想による創造が思う存分にできるのです。あなたが普段何気なく聴いている音楽にも、視点を変えると未知の部分、あるいは曖昧な要素を発見できるかもしれません。音楽は、めまぐるしく変わる世界の中で、新たな考え方やテクノロジーと共に、さらに新しい表現の可能性を広げ続けており、もしかしたら、音楽の定義は今後変わってくるのかもしれません。
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愛知県立芸術大学音楽学部 音楽科 作曲専攻 作曲コース 教授山本 裕之 先生
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