地球を守る薬を作る! 薬で大気中のCO₂回収に成功
あらゆる分野で効果を発揮する薬
「薬」といえば、人間の病気に効く薬のほかにも、消毒薬、診断薬、農薬、釉薬などさまざまなものが「薬」と名付けられています。つまり薬とは、特定の何かに対して効果を発揮するものだといえるでしょう。もし環境問題に効く薬があれば、地球を助けることも可能です。
地球温暖化の原因のひとつとされている二酸化炭素(CO₂)を減らすために、大気中のCO₂を直接回収するダイレクトエアキャプチャー(DAC)に役立つ薬が開発されました。大気中には窒素や酸素、湿気など複数の成分が含まれているため、CO₂だけを回収することは難しいとされてきましたが、そこで役立ったのが薬学の知見です。
薬学で環境保護に貢献
アミンはCO₂の回収に使われることの多い化合物ですが、水に溶けやすく大気中の湿気も一緒に取り込んでしまうため、回収効率の悪さが課題でした。一方、人の体内で効く薬は、細胞膜という、水と油を合わせたような部分を通り抜けなければいけないため、水にも油にも溶ける性質を持たせます。この技術を利用して、油に溶けやすい(=水を弾きやすい)構造をアミンに取り付け、大気中のCO₂を選択的に回収できるようにしたのです。CO₂を含んだアミンは、加熱によって両者の分離が可能です。つまり、アミンを再利用できるだけでなく、CO₂を別の用途に使うこともできるのです。
回収したCO₂の使い道は?
これにより、地中や海底に貯留するだけではなく、例えばエンハンストオイルリカバリー(EOR)に役立つと考えられています。EORとは原油の回収率を向上させる技術です。枯れ始めた油田にCO₂を入れると、回収しきれず地中にまだ残っている原油が取り出せるようになります。ほかにもメタネーションという、水素とCO₂を組み合わせてメタンを作る取り組みなどに貢献可能です。今後は、こうしたCO₂回収剤をさらに発展させるために、CO₂を回収しながら別のエネルギーに変換する装置などの開発が求められています。
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神戸学院大学 薬学部 薬学科 教授 稲垣 冬彦 先生
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