成人T細胞白血病患者を救いたい
成人T細胞白血病とは
白血病の中に、ウイルスが原因で発症する成人T細胞白血病(ATL)という白血病があります。このウイルスはレトロウイルスの仲間で、HTLV-1と呼ばれています。感染して発症するまで50~60年かかりますが、発症すると急性型ATLで生存期間中央値が6ヶ月と死亡率が高いのが特徴です。また、感染者の約95%は感染しても発症しません。感染経路は母乳による母子感染が6割で、残りは性感染です。さらに特徴的なのは、日本では九州、特に南九州に感染者が多いことです。感染者108万人(平成22年)の中の約42%が九州の感染者となっています。
がん発症のメカニズム
白血病は血液のがんですが、通常はがん細胞が発生しても血液中のT細胞(リンパ球)が攻撃してがんの発症を抑制します。ところが、HTLV-1はこのT細胞に感染して、がん化するとATL細胞になります。ATL細胞は、感染していないT細胞から攻撃を受けますが、攻撃から逃れようとします。免疫細胞であるT細胞が出すPD-1という分子に対してPD-L1という分子を出して攻撃をブロックするのです。そうすると、T細胞の免疫能力が落ちてしまいます。結果として、がん細胞が増殖してしまうのです。PD-1を発見したのは、ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)氏です。がん細胞の増殖ではなく、免疫細胞の働きに注目したところがこの研究の画期的なところで、新しい治療法の可能性が出てきたのです。
がん細胞の働きを阻害する薬剤
ATLでは、母子感染を防ぐ対策が行われる一方で、PD-1を標的にしたニボルマブという薬剤が開発されています。ATL細胞のブロックを阻害するので、T細胞の免疫が働くようになり、がんを攻撃できるようになります。ただ、ATLの詳しい発症メカニズムはまだ明らかになっていません。そこで、それを明らかにするための基礎研究が必要なのです。
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福岡大学 薬学部 薬学科 准教授 小迫 知弘 先生
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