読書を通して「小さな人」を「素敵な人」に育てる国語教育の役割
心に残る、新美南吉『ごんぎつね』
あなたは、小学校四年生の頃、国語の授業で新美南吉の『ごんぎつね』を読んだことを覚えているでしょうか。主人公の小ぎつね「ごん」は、いたずらばかり繰り返します。ある秋、兵十のウナギを盗んだことを後悔したごんは、つぐないに栗や松茸を兵十の家にこっそりと届けます。けれども、最後に、ごんは、兵十に火縄銃で撃たれて死んでいきます。兵十に「おまえだったのか」と聞かれて、目をつぶったままうなずく、ごんの様子を描く最後のクライマックス場面は、多くの読者の胸に悲しく残っていることでしょう。
幼い子ども? それとも一人前の大人?
さて、ごんは「幼い子ども」、それとも「一人前の大人」ですか? 一人で読む読書なら、それは読者の自由な想像に委ねられます。でも、国語の授業は、人物についての大切な設定をみんなで共有した上で、一人ひとりが自分らしい感想をもつことが重要です。書かれている言葉を詳しく読んで自分らしい感想をもち、仲間と伝え合う学びこそ面白いのです。そんな『ごんぎつね』の授業ができる先生を育てることは、教育学の重要な役割です。
ちなみにごんは、「大人の若者ギツネ」です。「子ぎつね」ではなく、「小ぎつね」と書いてあります。それを共有せずして、最後に「うなずいて死んでいくごん」の心情について、意見を出し合い、話し合うことは無駄です。
物語を読むことは、たくさんの人生に出会うこと
国語教科書には、多くの物語作品が載っています。6年間の国語授業を通して、物語の読み方を指導し、仲間とともに物語を詳しく読むことの面白さを教えることが、教育学を学んだ小学校教師の大きな仕事の一つです。人は誰でも、たった一度きりの人生を、少しでも豊かにしようと精一杯に生きています。優れた物語には人間が生きることの真実が描かれています。多くの物語を読むことは、数え切れないほどの多くの人の多くの人生に出会い、人生を学ぶことに他なりません。読書は、自分という「小さな人」を「素敵な人」にと、きっと育ててくれます。
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先生情報 / 大学情報
桃山学院大学 人間教育学部(※2025年4月開設) 人間教育学科 教授 二瓶 弘行 先生
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