保健体育から考える、教師に求められる力とは
教材の裏側を知る
1891年にアメリカで生まれたバスケットボールは、もともとスポーツ指導者を志望する学生のために考案されたものです。冬場にできるスポーツがなく授業意欲が下がりがちだった学生の集中力を高めようと、指導者のネイスミスが作りました。保健体育の授業でこうしたエピソードなど、文化を内包した教材としてスポーツを扱うと、運動のうまさに関係なく子どもたちの興味を引き出したり、考える力を養ったりできます。
水俣病から健康を考える
保健体育の授業では水俣病など、環境問題や健康に関するテーマも扱います。水俣病患者には「宝子(たからご)」と呼ばれる、胎児性水俣病の子どもたちがいました。なぜ彼らが宝子と呼ばれたのかを調べると、「子どもだからかわいがられていた」という単純な理由ではないことがわかります。水俣病の原因はメチル水銀に汚染された環境で育った魚などを摂取することです。宝子の母親が比較的健康体だったため、彼らは水俣病ではないとされていました。しかし宝子たちは、母親の体内に入ったメチル水銀を吸い取ってくれたのです。生まれるときに決して体外に排出されることのないメチル水銀を、胎児がひきとってくれたために、健康でいられた母親は、命の恩人である子どもを宝子と呼びました。このように事例の背景を伝えると、生徒はより深い視点で環境や健康を考える傾向がみられます。
保健体育の教師に必要な3要素
保健体育の授業で教師に求められる力は主に3つあります。1つ目は科学的な認識力です。不確実な情報に流されることなく、科学的な根拠にもとづいて物事を考えます。2つ目は構造的な把握力です。複数の視点を持つことで、物事の表面だけではなく構造全体を把握します。3つ目は実存的実践力です。子どもたち一人ひとりが違う人生を歩んでいることを意識し、教材の扱い方を工夫します。すると生徒たちは授業を通して、根拠や事実を客観的に受け止め、考える力を身につけることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
駿河台大学 スポーツ科学部 スポーツ科学科 准教授 平野 和弘 先生
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