手で書かれた文字が人の心をとらえるのはなぜだろう?

漢字から生まれた日本独自の文字とは?
中国から日本に伝わった漢字には、篆書(てんしょ)・隷書(れいしょ)・草書・行書・楷書の5種類の書体があります。平安時代、その1つである草書体が「大和言葉」、つまり古くから伝わる日本語の表記に合うのではないかと当時の人が考えて、誕生したのが日本独自の「かな」文字です。草書体をより簡略化して、余白や間を取り、線をつなげ、流動的な動きを繰り返すなどのアレンジが加えられたのです。平安時代には、かな文字を使って、多くの和歌や『源氏物語』などの文学作品が書かれました。
音楽的要素や自分の思いの表現
当時の社会では和歌を詠んで書き写すことが貴族のたしなみだったので、和歌の持つ音楽的な要素をなんとか表現しようと、書き手は筆運びにリズムや線の強弱などを付けて工夫しました。それが「筆脈(ひつみゃく)」と呼ばれるものです。歴史ある書の作品「古筆(こひつ)」を見ると、脈拍や鼓動のようなリズム、息継ぎのような呼吸の跡などを読み取ることができます。同じ和歌を書くにしても、書き手がその和歌をどのようにとらえたか、どのように理解したか、どこに思いを込めたか、どういう音の表現をしたかったかによって、作品の趣がまるで異なるのです。書を鑑賞する時にこの筆脈が読み取れるようになると、書き手の心情や日本の文化がより身近に感じられるでしょう。
手で書かれた文字に潜む力
文字は、思いや考えを伝達するための記号ですが、それだけではなく、書かれた文字の外にある情報にも目を向けることが大切です。書かれた時代背景、書き手の生きざま、趣味や思想などを探求して思いを巡らせ、何を伝えようとしたのかを考察することで、書かれた文字以上のものが受け取れるはずです。字の上手下手にかかわらず、思いを込めた書には人の心を引きつける何かが存在します。そこにテクノロジーの進化が目覚ましい現代で、あえて手で文字を書くことの大切な意義があるのです。
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