食べて回復! 「食物嫌悪」を起こさない食事と栄養の指導
どうやって食べてもらうかを考える
管理栄養士は小中学校の給食や病院や介護施設で献立を作成する仕事、というイメージかもしれません。現在はその仕事のフィールドも広がり、食品の開発やアスリートへの栄養指導などを専門とする人もいます。また、さまざまな理由で食欲不振のある患者に対して、どのようにして食べてもらうかを考え、医療従事者と連携して体力の回復をサポートすることも管理栄養士のテーマとなってきました。
食べたものが嫌いになる仕組み
食欲不振にもいろいろなケースがあります。例えば、抗がん剤で治療中の患者は、砂糖と醤油を使った煮物を嫌がることがよくあります。これはストレスやホルモンのバランス、または薬剤の影響による嗅覚過敏から起こると考えられています。嗅覚は元々危険なものを感知する能力が優先されるため、身体に異常があると普段は何でもない食べ物を危険なものと判断して嫌悪してしまうのです。また、食べられるものであっても、治療の不快感と味を同時に繰り返して記憶することで、次第にその食事も受け付けなくなってしまいます。この食べ物に対する嫌悪学習は回復を遠ざけるものですが、苦しんでいる患者に対して「薬だと思って食べてください」「あなたの体のため」という言葉は、食べ物への嫌悪感をさらに強めてしまいます。
食べ物と記憶を結びつける栄養学
現在は効果の高い吐き気どめの薬の開発も進んでいます。また、どうしても固形のものが食べられない時期には、経口栄養剤や点滴での栄養摂取も並行します。しかし、腸が機能しているのであれば、食べることにより回復効果を高めることができます。例えば、柑橘類の香りは他の食べ物の匂いをマスキングしてくれるため、果物や柑橘系の香りをつけたものであれば食べられるという患者も多くいます。食事で治療の効果を高めるためには、食品の栄養素だけに注目するのではなく、脳科学の知見なども取り入れて食べ物と人間の記憶や感情との関係性について考えていく必要があります。
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先生情報 / 大学情報
広島女学院大学 人間生活学部 管理栄養学科 教授 石長 孝二郎 先生
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