講義No.12174 食物・栄養学

食べて回復! 「食物嫌悪」を起こさない食事と栄養の指導

食べて回復! 「食物嫌悪」を起こさない食事と栄養の指導

どうやって食べてもらうかを考える

管理栄養士は小中学校の給食や病院や介護施設で献立を作成する仕事、というイメージかもしれません。現在はその仕事のフィールドも広がり、食品の開発やアスリートへの栄養指導などを専門とする人もいます。また、さまざまな理由で食欲不振のある患者に対して、どのようにして食べてもらうかを考え、医療従事者と連携して体力の回復をサポートすることも管理栄養士のテーマとなってきました。

食べたものが嫌いになる仕組み

食欲不振にもいろいろなケースがあります。例えば、抗がん剤で治療中の患者は、砂糖と醤油を使った煮物を嫌がることがよくあります。これはストレスやホルモンのバランス、または薬剤の影響による嗅覚過敏から起こると考えられています。嗅覚は元々危険なものを感知する能力が優先されるため、身体に異常があると普段は何でもない食べ物を危険なものと判断して嫌悪してしまうのです。また、食べられるものであっても、治療の不快感と味を同時に繰り返して記憶することで、次第にその食事も受け付けなくなってしまいます。この食べ物に対する嫌悪学習は回復を遠ざけるものですが、苦しんでいる患者に対して「薬だと思って食べてください」「あなたの体のため」という言葉は、食べ物への嫌悪感をさらに強めてしまいます。

食べ物と記憶を結びつける栄養学

現在は効果の高い吐き気どめの薬の開発も進んでいます。また、どうしても固形のものが食べられない時期には、経口栄養剤や点滴での栄養摂取も並行します。しかし、腸が機能しているのであれば、食べることにより回復効果を高めることができます。例えば、柑橘類の香りは他の食べ物の匂いをマスキングしてくれるため、果物や柑橘系の香りをつけたものであれば食べられるという患者も多くいます。食事で治療の効果を高めるためには、食品の栄養素だけに注目するのではなく、脳科学の知見なども取り入れて食べ物と人間の記憶や感情との関係性について考えていく必要があります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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広島女学院大学 人間生活学部 管理栄養学科 教授 石長 孝二郎 先生

広島女学院大学 人間生活学部 管理栄養学科 教授 石長 孝二郎 先生

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臨床栄養学、栄養学

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メッセージ

管理栄養士は食事の栄養素を計算して栄養バランスを考えることが仕事だという印象が長らくありました。しかし、勤めてみると机上では見えなかった患者さん一人ひとりの顔が見えてきます。体調不良の人が生きていくうえで不安を感じるのは、食事が食べられなくなった時と自分でトイレに行けなくなった時です。管理栄養士はそういった人々の回復を食の面から支援していきます。患者さんから感謝の言葉をいただき、その笑顔や回復していく姿を見ることは、この仕事の大きな醍醐味であり、大きなやりがいを感じる瞬間です。

先生への質問

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キリスト教精神に基づいた平和主義と人間愛を伝える教育により、「広い教養と高い人格」を備えた女性の育成が広島女学院大学の教育理念。学内・学外での多様な経験を通して、さまざまな課題に向き合い、他者とともに解決していくプロセスに重点を置いた学びの機会を多く設けることで「伝える力」を身につけ、自信を持って自分の考えを表現できる、「ぶれない個・私」を持った女性を育成します。教職員と学生の距離が近く、女子大学ならではのアットホームな雰囲気の中で、学生一人ひとりをきめ細かくサポートしています。