美術品や古文書、墓石から見えてくる、新事実と地域の歴史
都と地方を結ぶ美術を通じた関係
美術や、広く文化は生命維持に不可欠ではない、無駄なものとされます。でも、人間の、ほかの生物にはない人間らしさは無駄なもののなかにあるのではないでしょうか。
江戸時代は日本で美術・文化が盛んになった時期のひとつです。京都に天皇をとりまく宮廷があり、その依頼で屏風(びょうぶ)や掛け軸などの絵画を描く宮廷画家がたくさんいました。地方から出てきて宮廷画家になった人や、宮廷画家に弟子入りして地方に戻って活躍した人もいます。
新事実の発見もある、古文書や墓石
古文書を調べると、それまでの通説が覆ることがあります。ある屏風絵は長年、画家のパトロンだった関白が描かせたとされてきましたが、天皇の代替わりがあり、退位する天皇のために描かれ、細かく指示を出して描かせたことがわかりました。
文字で残されるのは、古文書だけではありません。墓石には、その人がどんな人物だったのか刻まれていることもあります。古文書とあわせて墓石の文字を読むと、作品は残っていなくても、地方出身の宮廷画家だったことがわかる場合もあります。
古文書や墓石によって、文化の中心である京都と地方との関係が深かったこともわかってきました。京都で活躍した地方出身の画家や、宮廷画家の弟子で地元の人に支援されて活動した画家など、その地域の歴史も見えてきます。
保護が急がれる地域の財産
また、神社に掲げられた大きな絵馬、お寺の天井など、見過ごしているなかにも江戸時代の絵があります。しかし今、どんどん失われています。古い墓は整理され、管理者がいない寺院は朽ちたり、取り壊されたりしているからです。これらは、地域の大切な財産です。そこで失われる前に、後世に残す記録が必要です。墓石を伝統的な拓本で写し取ることや、最新の3Dスキャンを用いる試みもその一環です。
美術的、歴史的価値のあるものが、地方にはまだたくさんあります。それを保護することで地域資源や文化財となり、地域の活性化や住んでいる町の見直しにもつながるのです。
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先生情報 / 大学情報
広島女学院大学 人間生活学部 生活デザイン学科 教授 福田 道宏 先生
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