医薬品開発のコストや時間を、「ミニ肝臓」で効率化をめざす
肝臓が持つ多彩な働き
人間の臓器の中でも、肝臓はじつにさまざまな働きを持っています。そのひとつが、吸収した栄養分を全身に送り出す働きです。人間の口から入った食物は、主に小腸で吸収され、肝臓に送られます。肝臓内での化学反応により、栄養素として役立つ形に変わり、血液に乗って体内に送り届けられます。つまり生体内の「化学工場」のような臓器なのです。
体内に毒が入った場合は、肝臓は毒性を弱めたり、外に排出したりします。体に良いものと悪いものを選別するわけです。ところが、人間が薬を飲んだ時、肝臓がそれを毒と同じと判断してしまうと、体内に回らずに排出されてしまいます。医薬品の開発においては、それを防ぐための工夫が必要になります。
「ミニ肝臓」で生体を模倣する
医薬品開発には、膨大な時間とお金がかかります。動物実験を経て、人間に対する臨床実験を経て、安全性を確認しないと使用が認められないためです。
そこで、肝臓の細胞を実験室で増殖させ、肝臓の機能を再現できるようなシステムを構築すれば、動物実験や臨床実験をある程度省略することができます。肝臓は、肝細胞だけでなく免疫担当細胞などから成り立ち、複雑な構造をしているため、肝臓内の働きを再現するには細胞の組み合わせや環境を工夫しなければなりません。そうしてできた「ミニ肝臓」があれば、動物や人間にリスクを与えることなく、医薬品や化学物質の安全性評価ができることになります。
「生体模倣システム」が医療を変える
このように、実験室で人間の生体の働きを再現できるシステムを「生体模倣システム」と呼びますが、今後、こうしたシステムが医療の研究に使用されていくと考えられます。生体模倣システムは、単に創薬のために生体の代わりをするだけでなく、その働きを調べることで、生体のメカニズムの解明にもつながることが期待されています。肝臓の持つさまざまな働きについても、これまでわからなかった多くのことがわかるようになっていくかもしれません。
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崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 教授 石田 誠一 先生
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