バルザックが浮き彫りにした人の感性は、今も昔も変わらない?
バルザックの生きた19世紀のフランス
19世紀のフランスの作家、オノレ・ド・バルザックは、社会構造が劇的に変化した当時のフランス社会を生きる人々の日常生活と、社会構造を描きました。中でも人の面白さや恐ろしさの描かれ方は多彩です。注目の一つが、「噂」の力です。一般大衆を動かしたのは、不特定多数の大衆の間で、ひそかに流れる噂でした。それがやがて、社会を揺るがすほどの力を持ちます。現代では、SNSがそれと似た役割を果たしています。
現実の中の非現実世界、ヘテロトピア
「サウンドスケープ(音の風景)」に着目すると当時の小説がより立体的に読めてきます。小説には森の音や雑踏、作業音など、周囲を取り巻く音や音楽など、感覚に訴える表現が描きこまれています。バルザックの場合、流行していたオペラの一節を登場人物に歌わせています。当時の読者はその曲を知っているので、きっと読みながら口ずさんだことでしょう。今のように動画で音を再現できなかった時代ならではです。
さらに別の特徴、「ヘテロトピア」にも着目してみましょう。これは、ある場所に入っただけで他の場所と違うと感じられる、現実の中の異なる空間を意味します。今なら遊園地や墓地、あるいは飛行機や電車も、人によってはヘテロトピアでしょう。作品では、登場人物たちにさまざまなヘテロトピアを経験させることで、立場や考え方の違いを浮き彫りにしています。また、そこで登場人物の振る舞いやものの見方が変化したり、精神的に成長したりと、いわゆる反転した視点を獲得させ、物語のアクセントになっています。
作品から浮かび上がる、人の心と社会
バルザックは、作品の中で「噂」や「サウンドスケープ」、「ヘテロトピア」などを用いて、当時の人々の感性を作品に落とし込みました。描かれる社会全体を写し取った小説作品は、その時代を映す鏡です。それを丁寧に読み解くことで、その時代背景や人々の感性を明らかにし、主人公や、さらにその周囲の名もなき一人一人の人生に近づくことができます。
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先生情報 / 大学情報
上智大学 文学部 フランス文学科 教授 博多 かおる 先生
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