パリに受け継がれた創作の伝統とは?

パリに受け継がれた創作の伝統とは?

パリの伝統とは?

フランスのパリといえば「芸術の都」といったイメージを持っている人は多いでしょう。現代のパリも世界中からアーティストが集まり、新たな作品を発信する拠点となっています。これはパリの伝統ともいえる傾向です。20世紀のフランス文学や芸術からも、パリは異文化を受け入れ、既存の枠組みにとらわれない新しい文化を発信する場所だったことがわかります。

ベケットによる自己翻訳

例えば20世紀に活躍したサミュエル・ベケットという作家がいます。アイルランド人ですが、パリに住みフランス語で作品を書きました。ベケットはフランス語で書いた作品を自ら英語に翻訳しています。ただし翻訳というよりも編集といえるほど表現が大きく異なっていました。フランス語で書いた『メルシエとカミエ』という作品は約20年たって英語に自己翻訳されましたが、文章量はもとの半分です。同じタイトルでも中身がまったく違っている、翻訳の概念を覆すような大胆な自己翻訳だといえます。

戯曲なのに小説みたい?

ベケットは小説、戯曲、詩、ラジオ作品などジャンルにこだわらずに創作を行っていました。中には、従来のジャンルの枠組みを壊すような作品も見られます。例えばベケットの戯曲の中には小説のような表現があります。戯曲には、舞台上の状況を説明する「ト書き」があります。演出に関わる部分のため、通常は簡潔でわかりやすく、現実的な内容が書かれます。しかしベケットの作品には「ドアが認知できないほどに開いている」と書かれたものがあります。このト書きを見ても演出家は、ドアがかなり開いているのか、それともほんの少しだけ開いているのか判断できません。こうした実現不可能な表現は従来の戯曲では考えられず、小説も書いていたベケットらしい特徴だといえます。
ベケットのようにジャンルにとらわれない作品を生み出した作家は、パリに数多く見られました。伝統ともいえるパリの懐の深さも、作家にインスピレーションを与えていたと考えられています。

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学習院大学 文学部 フランス語圏文化学科 准教授 大野 麻奈子 先生

学習院大学 文学部 フランス語圏文化学科 准教授 大野 麻奈子 先生

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メッセージ

新しい言語の習得は、家に窓が増えるようなものだと思います。私は大学でフランス語を学び、見える景色が一気に広がったことに感動を覚えました。フランス語圏はカナダやアフリカなどさまざまな国に存在するため、パノラマのように世界を見渡せるようになったのです。フランスは、世界中からさまざまな文化を取り入れて多様性を生み出す魅力的な国だと思います。母語である日本語と、英語からだけでは見えなかった面白い世界に触れられるはずなので、ぜひ大学でフランス語や文化を学び、新しいものの見方を身につけてほしいです。

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