究極のサステイナビリティ 日本の伝統文化・漆工芸の大いなる魅力

究極のサステイナビリティ 日本の伝統文化・漆工芸の大いなる魅力

地球に優しい漆工芸

漆工芸とは、漆の木から採取した樹液を使って造形と装飾を施す日本の伝統工芸です。仏像や器の制作、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)などの加飾技法があります。もはや「過去の技法」と感じるかもしれませんが、実は漆工芸は究極のサステイナビリティといえ、古くさいどころか、地球に優しい最先端の持続可能な技法なのです。
まず、漆の工芸品は使えば使うほど発色と艶が増します。これを「経年美化」と言います。傷や摩耗は、漆を塗り直すことで再生します。さらに、漆の木は切り倒すと若芽が出て、約15年で樹液採取が可能になります。プラスチックのように石油を使わず、しかも天然由来なので地球を汚すこともありません。

日本人の価値観を映し出す

漆工芸には日本人の感性や価値観が現れていることも、大きな魅力です。例えば、「根来(ねごろ)塗り」は、黒い漆の層の上に赤い漆を塗り重ねるもので、使ううちに表面が剥がれ、下の黒い層が現れてできた模様を風景に見立てて楽しみます。これも「経年美化」の1つで、日本人の美意識の表れと言えます。
また、蒔絵や螺鈿は漆で描いた絵柄に金や銀の粉を蒔いたり、貝を埋め込んだりする豪華な加飾で、日本で発達しました。蒔絵は日本ならではの平面性が顕著で、西洋絵画に見られる奥行き感とは大きく違っています。漆工芸を知ることは、日本人の感性に出会い、その価値を再発見することにほかなりません。

地域の歴史と漆工芸と

日本の漆工芸は、奈良や京都などの都を中心に発展しましたが、遠く離れた岩手や秋田でも盛んに行われてきたのです。それは、現在の岩手県二戸市浄法寺町エリアが漆の木の一大産地であったことや、江戸時代に秋田を治めた佐竹氏が、藩財政を豊かにするために工芸などの産業を振興したことと無関係ではないでしょう。地域の歴史と漆工芸の結びつきを探究することによって、郷土文化としての漆工芸の新たな特質に触れることができるかもしれません。漆工芸の世界は古くて新しい魅力に満ちているのです。

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秋田公立美術大学 美術学部 美術学科 教授 熊谷 晃 先生

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芸術学

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メッセージ

世の中には、形や習慣だけが残っていて、その理由が判然としないことが少なくありません。伝統工芸の世界にも、理由がわからないまま受け継がれていることがあり、そもそもなぜこの土地で漆工芸がこんなに発展したのかが定かでないこともあります。それらを調べていくと、思わぬ歴史が解明されることがあります。漆工芸は高価なものも多く、身近に感じられないかもしれませんが、学問の魅力が詰まっている分野です。ぜひ、漆工芸を通じて学びの奥深さを知ってほしいと願っています。

先生への質問

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秋田公立美術大学は、旧来の美術教育の概念にとらわれない新しい価値観に基づいた美術大学として、2023年に開学10周年を迎えました。
「新しい芸術領域を創造し、挑戦する大学」「秋田の伝統・文化をいかし発展させる大学」「秋田から世界へ発信するグローバル人材を育成する大学」「まちづくりに貢献し、地域社会とともに歩む大学」の4つを基本理念とし、素材や技法に依らない新しい領域を探求する5つの専攻と、それらを横断的に学び多様な価値を共有しつつ、専門能力を高めていくユニークな教育システムを有しています。