汚泥は宝の山! 貴重な資源を回収せよ
汚水浄化の残留物「汚泥」
「汚泥(おでい)」とは、汚水をきれいな水に浄化する際に残ってしまう物質のことです。これには重金属類や有機化学物質をはじめとする有害なものが混入し、そのままでは再利用が難しい場合もあります。そこで、有害なものを取り除きながら、有効利用できるものは回収して再利用をめざす技術の開発に注目が集まっています。
汚泥には貴重な資源も含まれている
言葉の響きから敬遠されがちな汚泥ですが、視点を変えれば「宝の山」ととらえることもできます。というのも、汚泥には有害物質だけでなく、貴重な物質も含有されているからです。その中のひとつがリン(元素記号はP)です。実はリンは日本ではとれない物質です。完全に輸入に頼っていますが、汚泥の中には数%のリンが含まれていて、技術が実用化され一般化すれば、貴重な資源の再利用につながることが期待されています。現在、汚泥のメタン発酵の際に溶出するリンを回収する方法、あるいは焼却した灰からアルカリまたは酸で抽出して回収する方法など、さまざまな技術が確立されています。
低コスト化と付加価値の実現が鍵
技術としては確立していますが、実用化に向けて課題となるのがそのコストです。コストがかかりすぎるため、技術はあるものの一般的には使われていないのが現状です。数ある回収方法の中でも、注目されているのがリンを過剰に蓄積した微生物から回収しようとする方法です。微生物にある特定の条件を与え、リンを吸収・排出させるものですが、こういった微生物の機能を利用した方法はこの分野における未来のキーワードとなるでしょう。また、特定の物質を抽出するだけでなく、+αの付加価値を生む回収方法についても研究が進められています。
リンは、DNAの成分であり、植物の生育には必要不可欠な役割も果たす非常に重要な物質です。しかし、枯渇が心配されている資源なのです。人類の行く末、農業の行く末に多大な影響を与える物質の抽出と、再利用の技術の実用化に向けた研究は、世界全体にとって急務の課題といえます。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 理工学部 システム創成工学科 社会基盤・環境コース(令和7年度から理工学部理工学科社環基盤・環境工学コース所属) 教授 伊藤 歩 先生
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