自然界の生物が工学設計に与える、必然でおもしろい「形」

自然界の生物が工学設計に与える、必然でおもしろい「形」

生き物の多様性とその構造の活用

生物の「形」は、自然淘汰(とうた)により常に時代に最適化されてきました。その最適化は、力学的にも同様です。そこで現在、まずは個々の生物の構造を理解して、その上で複数の生物構造を「合成」して得られるメリットを最大限に生かしたものづくりが積極的に行われています。例えば、ムササビやカモシカ、ウシの骨を一定の比率で合成させることで、微妙なゆがみを加えて持ち手の衝撃を緩和させ余分な力を逃す、新しい形の「つえ」が開発されています。これは軽さと扱いやすさも備えており、利用者に大きなメリットをもたらします。また、複数のカニのハサミを合成したグリッパ(部材をつかむ工具)なども誕生しました。

技術革新による、生み出されるものの変化

このような形状の道具や工業・産業部品が作れるようになった要因の一つに、3Dプリンタの発達があります。どんな複雑な形も再現できる3Dプリンタは、これからのものづくりには欠かせないものになるでしょう。実際、そうして制作されたカニのハサミのグリッパは、力の集中が40%弱抑えられるため、製品の耐久性にも結びついていきます。
さらに目に止まるのは、それらのデザインの「おもしろさ」です。これまで、特に工業・産業部品などは直線的で無味乾燥なイメージが強かったのですが、生物の構造を参考にすることでデザインに多様性が生まれます。それは無意味な装飾ではなく、必然性を持った形なのです。

異分野の融合にこそ存在する新しいアイデア

力学、工学的な目線と、生物をはじめとする「自然を見つめる理学的な視線」は別のものととらえられがちですが、双方に目を配ることで新しいアイデアが得られます。そこに現代の技術をプラスすることで、今までにはない、けれど使用するには最適な形のデザインを生み出していくことができます。この世界にある多様性をうまく合成していけば、結果的に社会の、人のためになるものづくりに結びつくと言えるでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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金沢大学 融合学域 スマート創成科学類 教授 坂本 二郎 先生

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設計工学、計算力学、生体力学、融合科学

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メッセージ

興味の中心がものづくりにあるとしても、視野を広げて自然界まで見つめてみましょう。例えば、細くて長い草が風雨に負けずにしっかり立っている様子は、ものづくりのヒントにもなる興味深い現象です。それを社会でどう役立てるかは、あなたの発想力にかかっています。自然界はアイデアの宝庫です。そこに気づき、納得したら、今度はあまり興味を持てない分野の学びにも少しだけ手を伸ばしてみましょう。それによって、今までにない「おもしろいこと」ができる可能性が生まれるはずです。

先生への質問

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。