先人たちの声を聴く-過去の言葉にアプローチ
変遷する日本語
高校生のあなたが古文の時間に学ぶ文語文法は、『源氏物語』や『枕草子』などでおなじみの平安時代中期の日本語を基礎としています。奈良時代には平安時代とは少し違う言葉が使われていましたし、平安時代語も平安時代の終わり頃には徐々に変化し始めて、鎌倉時代を経て室町時代に入るとかなり現代語に近い形に変わりました。この平安時代末期から室町時代にかけて特に大きく変化したのが、文法です。
連体形と終止形との合流
平安時代語の特徴の一つに、終止形と連体形があります。例えば「勉強する」の「する」という動詞は、現代語では文末でも「勉強するとき」と後ろに名詞がくる場合でも、同じ「する」という形です。一方、平安時代語では文末では終止形の「す」という形になり、連体形は「する」という形になります。このように、終止形と連体形が違う形だったものが、室町時代までに終止形が連体形に合流します。それによって、日本語の文法が様変わりしました。例えば、「係り結び」が衰退して室町時代にはすっかり形骸化したり、終止形で終わる文の主語には「昔、男ありけり」のように「が」「の」が付かなかったのが、「昔、男がいた」のように、主語に「が」「の」が現れるようになったりしました。
先人たちの声を伝える役割も
現在、日常生活で文語を目にする機会は滅多にありません。しかし、世の中に存在しないわけではありません。日本には約1,300年前からの文献がさまざまな形で保存、保管されています。これは文学作品だけではありません。例えば、明治時代から第二次世界大戦終了までの日本の公文書はすべて文語で書かれていました。また、鎌倉時代から江戸時代にかけても、日本の書き言葉は漢文と平安時代語を基礎とした擬古文が主に使われてきました。火山の噴火や地震、水害などの大きな災害を記録した古文書を読み解くプロジェクトにおいても、自然科学の知識だけでなく、文語文法や漢文の知識が必要です。文語文法の知識は、先人たちの声を現代の私たちに届ける大切なツールなのです。
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学習院大学 文学部 日本語日本文学科 教授 勝又 隆 先生
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