音声で複雑なコミュニケーションができる「カマイルカ」の秘密
1000頭もの群れで回遊するカマイルカ
「カマイルカ」は、日本近海を広く回遊し、北海道では毎年春から夏にかけて、積丹半島や室蘭の沖合に来遊してきます。大規模なものだと1000頭もの群れをなし、海中で音声を発して、互いにコミュニケーションを取っていることがわかっています。海の中は視界が悪く、深度によっては太陽の光も届きにくいのですが、海中で空気中の5倍の速度で伝わる音声は、視覚情報より格段に効率のいい伝達手段になるのです。
複数の音声を組み合わせたやりとり
カマイルカには、人間のような声帯がないかわりに、噴気孔につながる鼻道の奥に、振動で音声を発することのできる器官が備わっています。彼らの発する音声は、「エコロケーション・クリックス」「ホイッスル」「バーストパルス」の3種類に大きく分かれます。このうち、エコロケーション・クリックスは、発した音が周囲からどのように跳ね返ってくるかを感じ取って、移動や餌の捕獲の際に役立てることのできる、ソナーのような役割の音です。
イルカ同士のコミュニケーションに用いられる音声は、主にホイッスルとバーストパルスになります。ハンドウイルカなどでは、個体ごとに特有の抑揚を持つホイッスルを識別に用いています。カマイルカはホイッスルをあまり使わず、比較的低周波なバーストパルスの音声を何種類か組み合わせることで、個体の識別や互いのコミュニケーションに活用していると考えられています。
未知の部分も多いカマイルカの生態
広大な海域を回遊するカマイルカの生態や音声コミュニケーションの実態については、継続的な調査が難しいため、まだわかっていない課題も数多く残されています。海中に集音マイクを沈めて音声を採取しながら、カマイルカたちの行動と音声の組み合わせにどのような共通点があるのか、地道にデータを集めていく必要があります。その研究の先には、私たちの想像をはるかに超えた、カマイルカたちの社会の姿が見えてくるかもしれません。
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帝京平成大学 健康医療スポーツ学部 医療スポーツ学科 動物医療コース 講師 松代 真琳 先生
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