バイオメカニクスが水泳の未来を変える?

バイオメカニクスが水泳の未来を変える?

人間の泳ぎのメカニズムを分析

いま、トップアスリートのトレーニングには、機械工学の考え方を応用した「スポーツ工学」の研究成果が生かされるようになってきています。人間や動物の動きをロボットで再現する研究が進み、例えばイルカ同様の動きで水中を泳ぎ回るイルカロボットなども開発されました。そうした研究では、イルカの動きのメカニズムを細かく分析し、イルカがどのようにして水中を効率的に泳いでいるのかを解明していきます。つまり、人間が泳ぐメカニズムを解明していくことによって、どういう泳ぎ方をすれば速く泳げるかということが、導き出せるというわけです。

トップアスリートから福祉にまで応用

水泳を例にとると、人間の骨格と筋肉をコンピュータ上でモデル化し、クロールをしたときにはどの筋肉がどう動き、水中での抵抗はどのくらいになるのかなどを、シミュレーション解析していきます。こうした研究を、バイオメカニクス(生体力学)と呼んでいます。バイオメカニクスは、スポーツだけではなく、福祉の分野にも応用が可能です。身体に障がいのある人でも泳ぐことができるような補助具を開発したり、障がいのある人がリハビリをするにはどういう水中運動が適切かを分析したりできるのです。

トップスイマーの泳ぎ方はやっぱり理想的

北京オリンピックなどで大活躍したアメリカのマイケル・フェルプスは、世界最速の水泳選手と言われ、ドルフィンキックを使った独特の泳法を特徴としています。水泳シミュレーションでこのドルフィンキックを分析し、どういう動きだと最速になるのか、シミュレーションを何百回も繰り返した結果、なんと、フェルプス選手とほぼ同じ動きが、理想の泳ぎ方であるとの結論が出たのです。このシミュレーションをさらに発展させていけば、もしかすると人間がいままで試したことのない、まったく新しい泳ぎ方を発見することができるのかもしれません。

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先生情報 / 大学情報

東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 工学院 システム制御系 教授 中島 求 先生

東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 工学院 システム制御系 教授 中島 求 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

機械工学、スポーツ工学

メッセージ

人間の体やスポーツには興味があるけれど、自分で体を動かすことが苦手なら、もしくは数学や物理が好きで、理系の目で人間を研究したいなら、スポーツ工学をめざすといいかもしれません。実は私も運動は得意ではないほうなので、自分がスポーツの研究に携わるなんて思ってもいませんでした。しかし機械工学だけでなく、スポーツ工学にも関わるようになって、研究の幅も、付き合いの幅も広がりました。高校生の間に、受験勉強で燃え尽きてしまわないように、一生付き合っていける興味の対象をぜひ見つけてください。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学)に関心を持ったあなたは

東京科学大学(Science Tokyo)は、東京医科歯科大学と東京工業大学が統合して2024年10月に誕生した国立大学です。「『科学の進歩』と『人々の幸せ』とを探求し、社会とともに新たな価値を創造する」をMission に掲げ、両大学のこれまでの伝統と先進性を生かしながら、どの大学もなしえなかった新しい大学の在り方を創出していきます。
理工学系には、6学院(理学院、工学院、物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院)があります。