複雑な行動を簡単に実行できる仕組み
脳や脊髄にある神経回路の働き
買い物をしたり、料理をしたりといった、人間のすべての行動は脳からの命令により行われているように見えます。しかし、実際には一つ一つの動きをほとんど意識することなく、複雑な動作を行っています。これが可能なのは、脳から脊髄にかけて呼吸、歩行、表情、眼球運動などの基本的な運動を司る神経回路が分散していて、必要なものを瞬時に呼び出し組み合わせることで、日常の行動を実行しているからです。
年を取ると誤嚥しやすくなる理由
食事中の動作もまた神経回路の組み合わせによって行われています。ものを食べるときはまず噛み、砕いてやわらかくしたところでゴクンと飲み込みます。噛んでいる間は飲み込むことができませんから、適当なタイミングで噛む=「咀嚼(そしゃく)」と、飲み込む=「嚥下(えんげ)」の神経回路を切り替えることになります。複雑な動きにもかかわらずめったに失敗しません。しかし高齢者になるとこの切り替えがうまくできなくなり、誤嚥(ごえん)しやすくなります。超高齢社会をむかえ、さまざまな企業で、嚥下機能が低下した人向けの食べやすい食品や、摂食動作を補助する器具の開発を行うようになりました。
魚と人間は脳の作りが逆
ところが肝心の咀嚼や嚥下のメカニズムに関してはあまりよくわかっていないというのが実情です。哺乳類の場合、摂食を司る神経回路は脳のかなり深い場所にあるため、調べるのが難しいという事情があります。また、嚥下障害の治療のために、例えば電気刺激を直接加えることなども難しいのです。近くには呼吸や循環に関わる神経回路もあるため、嚥下機能を回復させる代わりに命の危険もあるからです。
一方、魚類や両生類は脳の発達の仕方が哺乳類とは逆のため、人間の脳では深いところにある構造が、表面の比較的調べやすい位置にあります。人間以外の動物も噛む、飲み込むといった行動をしていますから、ほかの動物の脳を調べることで人間の研究に役立つ可能性があります。
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先生情報 / 大学情報
山形県立米沢栄養大学 健康栄養学部 健康栄養学科 教授 齋藤 和也 先生
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