新しい運動を習得する最中、脳の中で何が起こっているのか?
身体の機能を回復する運動学習
国家資格である「作業療法士」は、医師や看護師、理学療法士と同じく現代のチーム医療を構成する重要な役割を担っています。作業療法は、主に脳卒中や骨折した患者の機能を回復し、元の日常に戻すことを目的としています。しかし、一度病気やけがによって失われた機能を取り戻すことは簡単ではなく、身体の動かし方についての技能を新たに学習しなければならないケースもあります。作業療法の研究分野では、こうした「運動学習」中に起こる脳の変化について研究しています。
運動学習中の脳の変化
運動学習の中の脳の変化についてとらえる手法の一つに、「NIRS(近赤外分光計測法)」があります。被験者の頭に専用の計測装置を装着し、タブレットに表示された印をなぞったり、複数のボタンの中から光ったものをすばやく押したりといった課題を与え、その最中に脳の前頭葉を流れる血中のオキシヘモグロビン濃度を測定します。被験者が課題に不慣れなうちはオキシヘモグロビン濃度が高く、慣れてくるうちに低下します。このことから、私たちがいつの間にかスマートフォンを無意識にタイピングできるようになるのと同様に、被験者も頭で考えずして身体が動くようになった、ということが読み取れます。
作業療法の発展に寄与する
人の身体から計測されるさまざまな情報を「生体情報」といいます。生体情報を適切に取得し、解析することで、脳の中で起こっているさまざまな現象・変化をより客観的にとらえられるようになります。NIRSは、「運動学習」と脳の働きの関係を解き明かすためには非常に有効な手段といえます。しかし、計測できる時間に制限があるほか、被験者の身体の動きによって正確なデータがとりにくくなるなど、いくつかの課題が残されています。この研究がさらに発展することで、リハビリ中の患者の変化についての客観的な指標を作業療法の現場に提示できるようになり、より効率的な作業療法のあり方につながることも期待されています。
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先生情報 / 大学情報
関西医療大学 保健医療学部 作業療法学科 講師 備前 宏紀 先生
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