里山の海版「里海」を実現するためには?
「里海」は成り立たない?
人里の近くにある山や森は「里山」と呼ばれ、人が適切に管理することで実りが豊かになります。一方で「里海」をつくることは難しいといわれてきました。海は人が関与しないほうが豊かになると考えられてきたからです。しかし全国各地の漁村の取り組みによって、人が適切に管理すれば海の環境がよくなる場合もあることがわかってきました。
里海をつくる組織
岡山県備前(びぜん)市の日生(ひなせ)は、いち早く里海づくりに取り組み始めた地域です。日生では高度経済成長期に海が汚れ、生物の産卵場などになる海草のアマモが激減しました。そこで漁業者の一部がアマモの増殖活動をはじめたところ、約20年後にアマモの増加や水質改善などの効果が表れ、アマモの再生に協力する人が急増しました。このように最初は少人数が取り組む地道な活動でも、ある段階を超えると一気に同調者が膨れ上がります。これを自己組織化といい、里海づくりに関わる人手をマネジメントする上で注目すべき現象です。
生態、物質、社会をつなげて考える
里海を支えるための要素は3つあります。1つ目は生態ネットワークに目を向けることです。生物多様性を守り、生物たちの生産性を向上させます。2つ目は適切な物質循環によって、海の中の栄養や水質を保つことです。3つ目は人の行動、組織化、連携といった社会ネットワークづくりです。これらの3つを個別にではなく連携させれば、里海づくりに役立つはずです。それが里海マネジメントの狙いです。
特に人の手で物質循環を改善する方法は、まだ研究が始まったばかりです。例えば瀬戸内海では、栄養塩が増えすぎて赤潮などが問題になっていたため、栄養塩類の排出を規制しました。しかし今度は栄養塩が減りすぎたために生物に悪影響を与えています。そこで兵庫県と研究者、それに漁業者が共同で、栄養塩を適切に管理するための方法や組織づくりの研究を始めました。世界的に見ても前例がない取り組みであるため、将来の里海づくりにおける重要な事例になると期待されています。
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近畿大学 産業理工学部 経営ビジネス学科 教授 日髙 健 先生
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