浜辺の海藻も! 何気ない場所に「未来の食品」が隠れている

浜辺の海藻も! 何気ない場所に「未来の食品」が隠れている

私たちを支える発酵の力

各地の食文化においては土壌や農水産物に生息する微生物が活躍し、物質を循環させるだけでなく発酵食品などの形で私たちの暮らしを支えてくれています。私たちが体内に摂取しても問題ない微生物は酵母や乳酸菌といったもので、人類ははるか昔から、発酵という形で微生物の恩恵を受けてきました。例えば醤油、納豆、漬物、チーズ、ヨーグルト、酒、酢、鰹節といった食品は、すべて元の材料が、発酵によって栄養価が高まったり、風味が増したりしたものです。

健康を作りだす腸内環境

食べ物の発酵だけでなく、微生物そのものが体内で生きた「善玉菌」となって活躍してくれる「プロバイオティクス」もあります。いわゆる腸内細菌のことで、「ブルガリア人が長寿なのは、毎日ヨーグルトを食べているからではないか?」という研究から始まりました。
また人間は、海から採れるさまざまな海産物を食べて生きてきました。人と自然が共生して、伝統的な漁業や社会組織、食文化を育んできた沿岸海域を「里海」と呼びます。日本人も昔から里海で採れる海藻類を食べてきたために、海藻類を消化吸収する特別な腸内細菌がいると言われてきました。しかしこれはヨーグルトと同じで、ある程度食べ続けると腸内環境がそのように整ってくるというのが最近の研究でわかっています。

不思議だらけのミクロの世界

現在、世界にどれだけの微生物がいるのか、実はまだほとんど解明できていません。例えば浜辺に打ち上げられて堆積する漂着海藻の中でも、塩分濃度や日差しなどさまざまな要因による微生物の変異があり、全く新しい菌が見つかる可能性もあります。その中には抗酸化作用や抗炎症性といった健康増進の力を持つものがいます。海藻は抗糖化性といって老化を抑制する力を持っているのですが、一定の発酵によってその力が増すことがわかっています。研究が進めば、思わぬ方法で、より機能性が高く、よりおいしい食品を生み出すこともできるかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 教授 久田 孝 先生

東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 教授 久田 孝 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

食品微生物学、食品機能学

メッセージ

なんでもいいので、やりたい学問を見つけましょう。いろいろな人が「それは将来の仕事につながるのか」とか「世の中の役に立つのか」と疑問をぶつけてくるかもしれません。しかし大学は、1つの学問を4年間も学ぶ機会を与えられる場所ですから、やはり第一に「自分がそれをやりたいか」で考えてください。
ちなみに、私のいる食品生産科学科は、人間が毎日食べて体内に取り入れる食品について研究し、「役に立つかどうか」が目に見えてわかる分野です。興味があるなら、ぜひ一緒にこれからの食べ物について学びましょう。

先生への質問

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東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。