便利な家電が家事の時間を増やす? 科学技術と社会の相互作用
女性が家事をする時間は減っていない?
内閣府の『平成17年版男女共同参画白書』には、家電製品の普及が家事労働の負担を軽減し女性の社会進出を後押ししたと書かれています。しかし家電製品が劇的に普及しても、女性が家事労働をする時間はあまり減っていません。むしろ家電の導入により家事の負担が増える場合がありました。この現象は1970年代から指摘されており、「家事時間のパラドックス」と呼ばれています。
家事労働を増やした洗濯機
例えば洗濯は、昔はほとんど行わないか、外部委託する作業でした。しかし洗濯機が登場すると、家で女性ひとりでも家族全員分の衣類を洗濯できるようになり、その分女性の家事負担が増加したのです。
洗濯機が家庭に普及すると、社会の規範も変化しました。現代の日本では一度着た衣類は洗うのが当然と考えられ、何日も同じ服を着ていると「汚い」と思われがちです。このように規範が変わるとそのハードルを下げることが難しくなります。さらに昔は洗っていなかったカーテンや毛布も洗うようになり、洗濯量を押し上げています。これも女性の家事労働時間が減らない原因のひとつです。
ジェンダーの影響を受けた機械
使用者のジェンダーを念頭に機械が開発されることもあります。例えば初期のミシン、タイプライター、製糸場の糸繰り機などは女性の体格に合わせて作られました。男性はすでに別の仕事に就いており、これらの機械を使う働き手として女性が期待されていたからです。すると「この機械を使う労働は女性がやるもの」という認識が、社会に浸透していきます。特に家電製品は女性向けにデザインされることが多く、「家事は女性がやるもの」という認識がますます根付いていきました。逆に言えばこうしたデザインは、男性を家事から排除していることにもなります。
つまり社会のあり方が科学技術に影響を与え、その結果作られた科学技術によってさらに社会の認識が強化されたのです。特定の「誰か」を排除しない技術を開発するためにも、科学と社会との相互作用を探ることが重要です。
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叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部 ソーシャルシステムデザイン学科 准教授 水島 希 先生
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