時代が求める、科学技術と社会とのコミュニケーション

時代が求める、科学技術と社会とのコミュニケーション

科学が現代社会に与える問題

科学の進歩はとどまるところを知りません。医療技術の進歩により、平均寿命は大きく伸びました。日本の乳児死亡率はこの1世紀で50分の1になりました。私たちの生活はより安全になり、はるかに便利になりました。さらに、生命科学の進展により、男女の産み分けが可能となり、技術的にはクローン人間を作れるまでになっています。しかしこのような事態は、これまで私たちが受け継いできた倫理や哲学と相いれるのでしょうか? 科学の最前線は、論議を呼ぶ要素を多く含んでいます。

イメージだけで車イスを運転できたらどうなるか

現代の科学は、科学の世界で完結することなく、私たちの生活と密接なかかわりを持つようになっています。科学者や技術者といった科学の専門家だけでなく、市民を含めたさまざまな立場の人々が、それぞれの観点から一緒になって問題を考えていくことが必要です。例えば、脳科学の分野は近年めざましく進歩し、神秘に包まれていた脳のメカニズムが徐々に解き明かされようとしています。頭の中でイメージしたことを信号にして機械に伝え、体を使わなくても車イスを運転できる技術も研究されています。実用化すれば、手足などに障がいのある大勢の人が利用するでしょう。しかし同じ技術は、軍事技術への転用という点からも注目を集めています。先端科学技術はそうした二面性も秘めているのです。

学問の垣根を取り払い「科学」を考える

現代科学をとりまくそういった課題を考えていくためには、理学や工学だけでなく、倫理学や哲学、社会学、法学、経済学など、文系・理系のいろいろな見方から問題を見つめていく必要があります。さらに、例えば脳科学の進展は、従来の哲学が前提としてきた人間像に再考を迫るものになっています。脳のメカニズムをマーケティングに利用する試みも始まっています。科学技術をめぐるさまざまな課題について、学問の垣根を取り払った立ち位置で深く洞察し、分野を超えて意見を交わしていくことが求められる時代なのです。

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大阪大学 文学部 哲学・思想文化学専修 教授 中村 征樹 先生

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哲学

メッセージ

高校までの勉強では、「正解」にたどり着こうと頑張ってきたのではないでしょうか。しかし、あなたが大学に入ってから取り組む学問には「答え」がないことが普通です。「答え」がないからこそ、研究者は日夜、睡眠時間を削って研究をしているわけです。新しい発見をし、まだ誰も見たことがないような世界を見られるようになること、それが「研究」の醍醐味です。日常の中のささいなことや、これまで誰も疑問に思ってこなかったようなことにも、研究のタネは潜んでいます。大学で研究の楽しさをぜひ味わってください!

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。