兵事史料からうかがい知る、「兵役」のリアル
くじ引きで決められた兵役
「徴兵制」と聞くと、すべての国民が兵士になるというイメージかもしれません。しかし、戦時でなければ兵役に従事したのは、徴兵検査で「甲種合格」という高い評価を受けた、体格に優れた強健な人たちばかりでした。しかも甲種合格しても即現役入営とはならず、定員に必要な分のみ、くじ引きを行い徴集したのです。現役を終えて除隊した後も「予備役」や「後備役」という形で、有事に備えた訓練を定期的に受けることになります。同じ合格者でも、くじに当たるかどうかが兵役につくかつかないかの分かれ目でした。
兵士はどのように配属されたのか
聴覚に優れていれば電信兵、手先が器用ならば工兵と、特化した能力が必要な兵種もあるため、徴兵検査の際はそうした点も加味されました。配属先には地域差もあり、人口の多い都市部在住の人は数多くの部隊に分けられた一方、農村部の人は「郷土部隊」と呼ばれる、同じ地域の人が集められた部隊が中心でした。戦時の召集では、召集令状(赤紙)を受け取ってから1週間程度の猶予期間があり、その間に身辺整理や歓送会が開かれました。出征当日には音楽隊を先頭に、駅まで住民が列を作るなど、にぎやかに見送られたようです。
各地に残された兵事史料
町村に残された「兵事史料」を見ると、戦争が本格化してからは「国民皆兵」の名の下、頑強さに劣る乙種や丙種合格の人も戦地に駆り出されるなど、変化を読み取ることができます。敗戦時、こうした書類は機密として焼却されました。しかし兵事業務を担当した職員が秘匿したり、焼却対象が限定的であったことなどから、残っている事例が全国で30町村弱あります。これらの兵事史料は単に数字を記録しただけのものではありません。戦争末期になり遺骨が届かなくなった中、村葬や慰霊をどのように行ったか、どうやって遺族を納得させたかという日々のやりとりが赤裸々に描かれており、当時を知る貴重な史料となっています。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 文学部 歴史学科 日本史専攻 教授 山本 和重 先生
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