「戦う」ことで自尊心の危機と向き合った武士(士族)たち

武士(士族)を襲った自尊心の危機
明治はじめの廃藩置県によって「士族」はほぼ失業状態になり、経済的に困窮していったことはよく知られています。一方、心理的な面に目を向けると、武士が持っていた特権が失われて、自尊心がひどく傷つけられることになりました。そのような状態で士族が明治期をどう生きていったかに注目した研究が行われています。
時代の流れにあらがう精神性
江戸時代はおおむね平和だったため、武士は「戦い」と縁遠くなりました。しかし明治維新前後にはいくつもの戦乱が起き、彼らは再び「戦う」ことに存在意義を感じるようになっていきました。士族が積極的に戦いの場に身を置こうとしていたことは、複数の資料から判明しています。また、彼らが西南戦争に従軍する際には、旧藩主の元を訪れてあいさつをしてから戦場に向かいました。ここから、藩の存在がなくなっても「藩としてのつながり」は維持され続けており、これも旧武士としての自尊心を維持するための行動の一つであると考えられています。
ペリー来航や戊辰戦争、西南戦争などを経て、武士の「武」に対する意識は高まっていったと推察されます。一方、明治という新時代が来ても彼らの日常生活は大きく変わることなく、江戸時代の交際範囲や生活スタイルが維持され、婚姻も士族同士で行うことが一般的でした。
明治期と現代を結びつけた考察
明治期の士族の生き方については、残された数少ない資料から読み解かれています。今後は、現時点で注目されていない資料から新事実が見つけ出されたり、個人所蔵の新しい資料が掘り出されたりなどして、さらに詳細な士族の明治の生き方が解明されていくかもしれません。
明治期の士族は、歴史上「敗者」とされることが多いですが、現代でも、必ずしも成功したと言えない人たちを「負け組」と呼んだりすることがあります。この現状を考えると、「敗者」の研究を深めることは重要であり、現在の社会が抱える問題の考察にも結びつくはずです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
