「小説を書く」方法~日常から見つけたタネを育てよう~
当たり前の日常から
小説は、特別な経験や多くの見識、人と違った独自の発想がなければ書けないかというと、必ずしもそうではありません。小説のタネは、当たり前に見ている日常の中にも転がっています。例えば青山七恵の小説『はぐれんぼう』は、「引き取りのないお預かり物は倉庫に送ります」というお知らせをクリーニング店の店先で目にしたことから発想を得て書かれた作品です。
完璧でなくてもいい
もちろん「引き取り手のない服は倉庫に送られる」という事実だけでは小説になりません。当たり前のものを「当たり前に見ない」という姿勢と、発端となったひとつの思いつきに「しがみつく力」が必要です。事実から辛抱強く想像を働かせることで、ストーリーは膨らんでいきます。作家によって創作の方法は違いますが、書く前に頭の中で完璧に仕上げる必要はありません。登場人物について、最初は漠然としたキャラクター設定でも、書いていくうちに行動や性格などの理解が進むこともあります。書く作業と考える作業を同時並行で進めるのです。そのうちに着想とは違った物語に展開していくこともあるかもしれません。そういったアドリブ的に生まれてきたものも大切に育てていくことで、頭の中だけでは進まなかった小説が動き出すこともあります。
描写力の訓練
一方で、人物や風景を描写する力は意識的に鍛えることができます。風景を見てスケッチするように文章で表現するのもいいですし、リンゴをまるで初めて見るものとして書き表してみるのもいいでしょう。また、たくさんの小説を読むことも大切です。いくつもの小説が自分の中に蓄積されていくと、自分の「小説の型」が形づくられてきます。最初は好きな作家のまねになってしまうかもしれません。しかし、それでも粘り強く書き続けていると、いつしか自分らしさのようなものがにじみ出て、自分だけの型になっていきます。そこに、日常生活で見つけた小説のタネを植えることで、自分だけの小説が紡ぎ出せるのです。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 文化社会学部 文芸創作学科 講師 青山 七恵 先生
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