優れた物語が私たちに投げかけるメッセージ
マンガやアニメは単なる娯楽?
世の中には数多くの「物語(ナラティブ)」があります。小説などの文学作品はもちろん、マンガ、アニメも物語です。活字の小説などに比べると、マンガやアニメは軽く扱われがちですが、文学に勝るとも劣らない素晴らしい作品もあります。特に優れた作品は、大人になって改めて触れると新しい発見があったり、見ている時代によって異なるメッセージが読み取れたりします。例えば映画監督・宮崎駿(はやお)のアニメは、民俗学、人類学、神話学などを徹底的に研究して作られており、深いメッセージ性がある作品です。
『となりのトトロ』に描かれた依代信仰
宮崎駿が徹底的に研究して描いているものの1つが「依代(よりしろ)信仰」です。これは民俗学者の柳田國男が提唱した考え方で、古代日本では空の上に霊魂(アニマ)が飛んでいるとされ、山頂や大きな木、滝、岩など霊魂が降りてくる場所が「依代」として信仰の対象となっていたというものです。この感覚は今にも残っていて、大きな木や岩にしめ縄があったり、山の上に神社があったりするのを見たことがあるでしょう。『となりのトトロ』に登場する大きなクスノキや『もののけ姫』のシシ神の森は依代のイメージと重なっており、民俗学の知識をベースに人々の生き方や考え方が描かれているのがわかります。
物語から普遍的なメッセージを読み取る
また、『風の谷のナウシカ』では、文明がエゴイズムを増幅させる様子を描いており、戦争や環境問題など現代の社会情勢を重ねて見ることができます。紹介したように、物語はどのような媒体で表現されているかを問わず、「私たちはどう生きるべきか、人間とはなんなのか」といった普遍的なメッセージを投げかけている作品は、いずれも優れた作品といえます。小説、アニメ、マンガなど媒体によって表現はさまざまですが、キャラクターやストーリーなど共通する要素も多いため、作品を研究する際は文学研究の手法を応用することが可能です。
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先生情報 / 大学情報
京都橘大学 文学部 日本語日本文学科 教授 野村 幸一郎 先生
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