AIにもクセがある? 機械学習と帰納バイアス
現在のAI技術とディープ・ラーニング
現在、人工知能(AI)技術の多くはディープ・ラーニングと呼ばれる手法に基づいています。ディープ・ラーニングは人間の脳にある神経の結びつきをモデル化したニューラルネットワークを複雑化したもので、OpenAI社のChatGPTに代表される生成AIにも応用されています。このようなAIは大量の文章や画像を学習し、その情報を頼りにさまざまなタスクをこなします。この際、人間に本能的な認知の歪みがあるように、AIにも「帰納バイアス」と呼ばれる出力データの偏りがあることが分かっています。
AIのクセ、帰納バイアスとは?
機械学習に用いる「モデル」は、たくさんの入力と出力を持つ関数と言い換えられます。この関数の定式化により生じる出力の偏りが帰納バイアスです。例えば、機械学習モデルにy=ax+bという一次式を使ったとすると、このモデルにはy=ax²+bx+cのような二次式に従うデータは扱えず、出力に偏りが生じます。近年の研究で、深層学習に用いられるニューラルネットワークの一種であるCNNに、より意味のある信号を出力しやすい、というクセがあることが分かっています。このAIが本来持っているクセを利用すると、AIに大量のデータを学習させなくても、目的のデータ処理を実現できる場合があります。一例として、この技術は、データに混じったノイズの除去や、写真の高解像度化に応用されています。
AIのクセを操って目標達成!
異なる関数で定式化された機械学習モデルは異なる帰納バイアスを持ちます。これを逆手に取り、人間にとって都合の良いデータを出力するようにAIをデザインすると、帰納バイアスを有益な用途に応用できます。同技術は写真のほか、音声信号や三次元の形状処理などさまざまな分野に応用されています。また、帰納バイアスによるAI技術は、訓練用のデータが少量で済むという特徴を持ち、データ収集の難しい用途、例えば、文化財や少数ロットの工業製品に関するデータ処理への応用が期待されています。
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先生情報 / 大学情報
一橋大学 ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス学科 准教授 谷田川 達也 先生
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