過去のデータから未来の犯罪発生を予測する

過去のデータから未来の犯罪発生を予測する

警察官が足りない

アメリカの一部地域では、警察官の数に対して犯罪の発生率が高いため、限られた人数で効率的にパトロールを行う必要があります。そのため、犯罪が起きやすい時間や場所をあらかじめ予想して、パトロールの時間やコースを最適化しなければなりません。過去の犯罪のデータを集計すれば犯罪の多い時間や場所は把握できますが、あくまでも過去の傾向です。これまでは犯罪が発生していないけれど、起きる「可能性がある」場所を予測できれば、さらに犯罪を防げると考えられます。

犯罪発生のメカニズムを推測

そこで使われるのが「ベイズ統計」です。ベイズ統計は、集まったデータを基にデータのない部分の仮説を立て、その仮説に対する「確率」を求めます。これにより「犯罪が発生するメカニズム」を推定するモデルを構築して、将来の犯罪発生を予測しています。例えば、犯罪が発生しやすい路地裏の状況の仮説を立てて、その犯罪確率が高ければ、空間的に似たような場所でも犯罪が起こりやすいと言えます。さらに、この予測に基づいて警察官がパトロールした場合の、犯罪の発生の「変化」も予測できます。一度モデルを構築すれば、新しいデータを追加して予測を更新したり、別の地域の予測に活用したりすることが可能です。

データをデザインする

同様のモデルは、多様な分野に応用されています。例えば森林保護のプロジェクトにおいて、保護した場合としなかった場合の状態を比較できれば成果は一目瞭然ですが、実際に保護しないまま経過を見るわけにはいきません。そこで、衛星画像などのデータを使ってモデルを構築し、保護しなかった場合の未来を予測するモデルを構築しています。モデルを構築するプログラミングの作成は、生成AIの活用により容易になりました。一方で、人間にはどのようなデータが有効かを考えて、そのデータを採取するプロセス自体をデザインする能力が求められています。目的から逆算して、コストと便益を考慮しながらデータ自体をデザインすることが重要なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

一橋大学 ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス学科 准教授 城田 慎一郎 先生

一橋大学 ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス学科 准教授 城田 慎一郎 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

ベイズ統計学、空間統計学

メッセージ

データサイエンスでは、プログラミングなどの技術力も必要ですが、もっと重要なことは「何にどうやって使うか」を考える力です。現在の日本には、少子高齢化や人口流出、移民などのさまざまな問題があるため、データサイエンスを使って、これらの問題を解決に導く方法を考える必要があります。現在の社会問題とデータサイエンスをうまく結びつけて自分なりのアプローチを見つけることで、新しい道を切り開くことができると考えています。

一橋大学に関心を持ったあなたは

一橋大学の大きな特色として、まず第1に挙げられるのは、我が国で最も伝統のある社会科学の総合大学として、常に学界をリードしてきたという長い歴史と実績、並びにこの伝統を受け継ぎ、人文科学を含む広い分野で、新しい問題領域の開拓と解明を推進する豊富な教授陣に恵まれていることです。第2は、商学部・経済学部・法学部・社会学部の垣根が低く、学生は各学部の開設科目を自由に履修することができます。また、10人から15人程度の少人数で行われているゼミナール制度(必修)を核とする少数精鋭教育も本学の特色のひとつです。