若者が地元に定着するには

高卒新卒者の地元就職率
日本の高校新卒者の県内就職率を見ると、最も高いのは愛知県(2024年度95.1%)で、2位は富山県(同93.9%)です。愛知県には自動車産業をはじめとする、高卒採用の多い企業が集まっているため納得の結果だといえます。では、東京や大阪といった大都市圏から離れている上に大企業が多いわけでもない富山県で、若者の地元就職率が高いのはなぜでしょうか。
経済地理学で迫ってみると
富山県の高校新卒者の進路選択において、就職する際に何が影響をおよぼすかを、経済地理学の視点から迫った研究があります。研究では「地域間比較」を行うために、富山県と同様に化学系の産業が発展しているものの、県内就職率は全国平均に近い山口県が比較対象に選ばれました。まず2県にある企業の立地や従業員数、有効求人倍率などが、公開されている統計データや地理情報システム(GIS)などにより可視化されました。さらに、2県にある企業が人材を確保するための取り組みについて、聞き取り調査が行われました。しかし、これらの調査からは2県に際立った違いは見られなかったのです。
教育で企業との接点を増やす
そこで着目された新たな視点が「教育」です。富山県では、中学2年生が地元企業で1週間の就業体験を行うプログラム「14歳の挑戦」が、1999年度から実施されています。これにより、生徒が早いうちから地元企業に対する理解を深めたり、学校と企業とのつながりが強まったりするのです。対する山口県では、一部地域で似た取り組みが見られるものの、県全体での活動ではありません。これらの分析により、富山県ではキャリア教育や企業との結びつきが、高卒新卒者の県内就職率に影響を与えている可能性が浮かび上がってきました。
若者の地元定着は特に地方で切実な課題です。そのため、県外に就職した人へのアンケート調査や、県内の生活環境調査など、若者が地元に定着するための有効な政策提言に資する研究が続けられています。
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周南公立大学経済経営学部 経済経営学科 教授佐藤 裕哉 先生
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