すぐそこにある「100年に一度の災害」を見据えた建築

すぐそこにある「100年に一度の災害」を見据えた建築

なぜ体育館は雪でつぶれてしまうのか

体育館や工場といった建物は、内部に大空間を持ちつつ成り立たせるため、重量が軽くなるようにつくられています。そのため大雪のような上からの力に弱く、屋根がつぶれてしまうことがあります。雪は想像以上に重く、積雪後に雨が降るとその雨水を抱え込んでさらに荷重が増します。一方で「軽い建物」は慣性力も小さいため、地震のような横からの力には比較的強いのです。地震の影響を受けるのは鉄筋コンクリートでつくられたビルのような「重い建物」で、慣性力も大きくなり、壁や柱に負荷がかかります。自重があるため下の階や根元ほど負荷が大きく、窓が多い面は強度が落ちるため、窓側が崩れることもあります。

強風で屋根の瓦も飛ぶ

一般住宅もビルと同じで、しっかりと構造計算をせず大きな窓のあるリビングをつくると、地震の際の弱点になります。1995年の阪神・淡路大震災の頃まではあまりその点が認知されておらず、古い建物が数多く壊れてしまいました。台風も住宅の大敵で、強風により屋根の瓦が飛ばされることもあります。これは飛行機が飛ぶのと同じ原理で、瓦に上向きの力が働くからです。本来は瓦を1枚ずつ固定するのが理想ですが、2000年以前に建てられた住宅では瓦自身の重量で押さえるという形になっているのが現実です。

災害に遭う可能性は決して低くない

生きているうちに大災害に遭うことはほとんどないと考えられがちですが、同じ場所に50年住み続けるとしたら50年に一度の災害に遭う確率は60パーセント以上、100年に一度のものでも40パーセントに達します。長い人生、一度は災害に見舞われることを想定すべきなのです。本来、安全な場所に安全な建物をつくって住むのが理想なのですが、山地や海に面した場所の多い日本ではなかなかそうもいきません。想定すべき災害は地震なのか雪なのか台風なのか、住居としての快適性も踏まえつつ、建築はあらゆる面から総合的に考えてつくる必要があります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

千葉大学 工学部 総合工学科 建築学コース 教授 高橋 徹 先生

千葉大学 工学部 総合工学科 建築学コース 教授 高橋 徹 先生

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建築学、自然災害科学、構造力学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校の数学で出てくる三角関数や対数、これは必要なのだろうか、何のために勉強しているのだろうと感じることもあるでしょう。しかし建築の分野では当たり前のように使いますし、広く世の中を見渡してみれば、高校で習う知識はさまざまなところで使われています。安易に必要ないと決めつけず、授業で得た知識を大事にしてください。
仮に得意な科目と進みたい分野がかみ合わなかったとしても、例えば建築であれば、数学が苦手でもAIを駆使して災害の想定被害を算出することもできます。大事なのは、得意分野をどう生かすかです。

先生への質問

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千葉大学は、他大学にないユニークな学部を含む全11学部を擁する総合大学です。学際的文理融合の精神のもとに、教育研究の高度化、産官学の連携推進、国際交流の拡充を進めています。近隣には放送大学、国立歴史民族博物館などがあり、各分野で共同研究が行われています。「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、世界を先導する創造的な教育・研究活動を通しての社会貢献を使命とし、生命のいっそうの輝きをめざす未来志向型大学として、たゆみない挑戦を続けます。