刺青は日本を代表する美術だった! 美術史からわかる歴史
視覚資料から歴史を探る
美術史とは、視覚資料を用いてその資料が生まれた当時の人々の考え方や社会の状況をひも解いていく学問です。文字で残されていないものや、言葉では表せないものが視覚資料から読み解けます。例えば平安時代について調べるとき、貴族の書いた日記だけを用いてしまうと、庶民の考えはなかなかわかりません。一方で同時代に庶民が拝んでいた仏像などの視覚資料に注目すると、人々が何を重んじていたのか、どのような社会状況だったのかなどを読み解くヒントになります。
江戸文化の粋であった刺青
美術史では古代から現代まで生み出されている、あらゆる視覚資料を対象にします。例えば刺青(いれずみ)も研究対象です。幕末から明治時代はじめには火消しや飛脚などの労働者がみな刺青を施していました。図柄と人格や立ち居振る舞いなどが一体となって成り立つ刺青は、顔や服装以上に個性を強く表し、日本の身体観を知るうえで欠かせません。こうした刺青文化の発展の背景には、図案や下絵を描いた浮世絵師がいました。明治に来日した外国人は一様に刺青に驚愕し、すばらしい芸術だと賞賛しました。庶民の間に浸透していた刺青でしたが、明治初年になると外国人の目を気にした政府によって禁止されます。戦後来日したアメリカ兵から要望が相次ぎ、GHQが刺青解禁を日本に迫りました。こうした歴史を持つ刺青は、日本を代表する芸術の一つでした。
タブーに目を向ける
明治期以降、西洋から流入したヌード芸術も、戦前までは風紀を乱すなどの理由でタブー視されていました。また、浮世絵最大のジャンルで江戸のポルノグラフィであった春画はいまだに公立の美術館や博物館では展示できません。第二次世界大戦中の戦争記録画も長らくタブー視されていましたし、ナチスの戦争画はいまだに隠されたままです。実際に存在していたものを抜きに、その時代の状況や人々の思考などを知ることはできません。タブー視されたこうした視覚資料に目を向けて、美術史本来の姿を明らかにする研究が続けられています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
神戸大学 文学部 人文学科 美術史学 教授 宮下 規久朗 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
美術史学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?