講義No.12851 社会学

男性不妊にまつわる言説と「男らしさ」の深い関係

男性不妊にまつわる言説と「男らしさ」の深い関係

男性にとっても身近な不妊

男女の間に子どもが産まれない場合、女性側の身体に何か問題があるに違いないといった認識が今もなお根強く残っています。しかし、実際には不妊の原因は男女ほぼ同数です。ところが、世の中の男性たちの多くはそのことを認識しておらず、不妊治療を始めてから自分の側に不妊の原因があると知って驚き、ショックを受けるのです。

男性不妊と「男らしさ」の回復

男性の不妊治療では、子どもをつくる生殖能力と、男性としての自尊心の問題とが強く結びついているという特徴がみられます。男性不妊が、まるで男性として劣っていることを意味するように読み替えられてしまう傾向があるのです。そのため、男性不妊をテーマにした当事者エッセイでも、「男らしさ」を保つために自分に性的能力があることをアピールするエピソードが最初に盛り込まれていたりします。また治療の結果、パートナーの女性が無事に妊娠しただけでは満足せずに、自分の性的能力が回復するまで、つまり「男らしさ」が回復したと感じられるまで続ける人が多いのです。

男性不妊をめぐる言説の広がり

妊娠や出産、そして美容外科などを中心に、女性特有の身体は長らく医療化され、市場を形成してきました。それに対して男性特有の身体が医療化されたのは遅く、1980年代中盤に入ってからです。その時期にクローズアップされたのが脱毛などでしたが、現在では男性不妊にまつわる医療市場が生まれています。この新しい医療市場が開拓される中で、さまざまなメディアを通じて男性不妊の問題が社会的に周知されていきました。当事者による体験談やエッセイのほか、男性不妊をテーマにした小説、漫画なども増えています。また、男性不妊は本来、純粋に医学的な問題だったはずです。しかし、男性向けの週刊誌などで取り上げられる場合、「日本男児たるものは」といったバイアスが足されたり、国家滅亡と結び付けられたりするなど、脚色が加えられていかがわしさが増す傾向がみられるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

創価大学 文学部  准教授 倉橋 耕平 先生

創価大学 文学部 准教授 倉橋 耕平 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

社会学、ジェンダー論

先生が目指すSDGs

メッセージ

ジェンダー研究は、フェミニズムという分野から登場した学問です。1960年代末から70年代初頭にかけて広がった第二波フェミニズムでは、「個人的なものは政治的である」をスローガンに掲げていました。今、自分の身に起きていることが、社会や政治とどのように関係しているのか。身近にあるさまざまな問題を取り上げて考察し、その謎解きをしてくのがこの学問の面白いところです。もし興味があるなら、日々の生活の中で半径3メートルぐらいの範囲でよいので、今のうちから何かしらの違和感をぜひ見つけておきましょう。

創価大学に関心を持ったあなたは

創立以来、学生と教職員が大学を創る者として、互いに対話、研鑽を重ねながら大学の価値を高めてきました。こうした教育・研究および社会貢献の成果は、文部科学省のGP(Good Practice)採択など、外部からの高い評価となり、普遍的な価値として、現代の大学教育に大きな示唆を与えています。また国際化が叫ばれる中、62カ国・地域、225大学との交流協定は、真の国際人養成に大いに貢献できることでしょう。