男性不妊にまつわる言説と「男らしさ」の深い関係
男性にとっても身近な不妊
男女の間に子どもが産まれない場合、女性側の身体に何か問題があるに違いないといった認識が今もなお根強く残っています。しかし、実際には不妊の原因は男女ほぼ同数です。ところが、世の中の男性たちの多くはそのことを認識しておらず、不妊治療を始めてから自分の側に不妊の原因があると知って驚き、ショックを受けるのです。
男性不妊と「男らしさ」の回復
男性の不妊治療では、子どもをつくる生殖能力と、男性としての自尊心の問題とが強く結びついているという特徴がみられます。男性不妊が、まるで男性として劣っていることを意味するように読み替えられてしまう傾向があるのです。そのため、男性不妊をテーマにした当事者エッセイでも、「男らしさ」を保つために自分に性的能力があることをアピールするエピソードが最初に盛り込まれていたりします。また治療の結果、パートナーの女性が無事に妊娠しただけでは満足せずに、自分の性的能力が回復するまで、つまり「男らしさ」が回復したと感じられるまで続ける人が多いのです。
男性不妊をめぐる言説の広がり
妊娠や出産、そして美容外科などを中心に、女性特有の身体は長らく医療化され、市場を形成してきました。それに対して男性特有の身体が医療化されたのは遅く、1980年代中盤に入ってからです。その時期にクローズアップされたのが脱毛などでしたが、現在では男性不妊にまつわる医療市場が生まれています。この新しい医療市場が開拓される中で、さまざまなメディアを通じて男性不妊の問題が社会的に周知されていきました。当事者による体験談やエッセイのほか、男性不妊をテーマにした小説、漫画なども増えています。また、男性不妊は本来、純粋に医学的な問題だったはずです。しかし、男性向けの週刊誌などで取り上げられる場合、「日本男児たるものは」といったバイアスが足されたり、国家滅亡と結び付けられたりするなど、脚色が加えられていかがわしさが増す傾向がみられるのです。
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