リラックス効果から認知症予防まで! スギの香りのすごい力

リラックス効果から認知症予防まで! スギの香りのすごい力

心をリラックスさせる木の香り

森の中の散策やハイキングなど、森林浴は私たちの気持ちをリラックスさせてくれます。鳥のさえずりや木漏れ日などの森林環境には、人間の心を穏やかにする作用があります。その中でも最も精神に影響を及ぼすのは、樹木の香りであると考えられています。
樹木が出す香りは、樹皮に多く含まれる「フィトンチッド」という揮発性の物質です。フィトンチッドは、木が病原体や害虫などから自分の身を守るために放出している物質で、抗酸化作用や抗菌作用、殺虫性などの成分が含まれています。

木の香り成分がα波を増大

樹木の香り成分のリラックス効果を確かめるため、スギの香りを被験者に吸入してもらい、脳波の変化を調べる実験が行われました。その結果、吸入前に比べ吸入後には、リラックスしているときに現れる「α波」が増大していることがわかりました。さらに、香り成分を一つ一つ化学的に分離して同様の実験を行ったところ、ほぼ匂いを感じないような個々の成分についても、α波の増大がみられました。このことから、さまざまな成分が混じり合った木の「良い香り」が心をリラックスさせるのではなく、個々の成分が脳に直接化学的に作用してα波を増大させると推定されます。

アルツハイマー病の予防効果にも期待

また最近の研究により、スギの香り成分にはリラックス効果だけでなく、アルツハイマー病の予防や治療の効果がある可能性が見えてきました。アルツハイマー病は、脳内でタンパク質「アミロイドβ」が重合し、脳に酸化ストレスを与えて神経細胞を損傷することが原因で発症します。スギの香り成分であるフェルギノールには強力な抗酸化作用があり、アミロイドβによる酸化ストレスを抑制できます。アルツハイマー病を発症する遺伝子組み換え線虫を使った実験では、スギのフェルギノールがアルツハイマー病を抑えることが確認されました。人の脳への効果の検証はこれからですが、さらに研究が進み、臨床研究へとつながることが期待されます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

岩手大学 農学部 森林科学科(令和7年度から農学部 地域環境科学科 森林科学コース所属) 教授 小藤田 久義 先生

岩手大学 農学部 森林科学科(令和7年度から農学部 地域環境科学科 森林科学コース所属) 教授 小藤田 久義 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

森林資源化学

メッセージ

高校までは、すでにある知識や考え方を学習します。それに対して大学では、まだ誰も答えを知らない問いや、正解のない問題にどうやって取り組んでいくのかを学びます。それを一番よく表しているのが卒業研究で、指導教員やほかの研究者、企業などと協力しながら、未知の課題に取り組んでいきます。その研究成果が実際に社会の役に立つこともあるでしょう。大学での学びの意味を理解し、夢を持って取り組めば、研究はより充実したものになると思います。卒業研究での経験は、卒業後も必ず役に立ちます。

岩手大学に関心を持ったあなたは

岩手大学は、人文社会科学部、教育学部、理工学部、農学部の4学部からなり、文理バランスの取れた総合大学です。
宮澤賢治も学んだ歴史と伝統、そして市街地ながら緑あふれるキャンパスは利便性も高く、落ち着いた学びの環境を形成しています。
また、全学部がワンキャンパスにあるため他学部の学生との交流も盛んで、学生の研究や就職などにも大きな効果をもたらしています。
大学HPでは、学部紹介やニュース、「岩手大学公式X」等で大学の魅力をお伝えしています。興味を持った方は是非ご覧になってみてください。