ひまわりに期待~セシウムに汚染された土壌を植物で浄化する~
環境汚染や健康被害を及ぼす放射性セシウム
福島第一原子力発電所の事故により放射性セシウムが大気中に放出され、広範な地域で土壌汚染が引き起こされました。放出されたセシウムが土壌や川に降り注ぎ、そこから家畜や魚に取り込まれ、それらを人間が食べることで健康被害が出ることが懸念されています。セシウムの半減期は、セシウム134が2年、セシウム137が30年と2種類がありますが、いずれにせよ自然に無害化するまでには長い期間を要します。
セシウムだけを吸収するタンパク質が必要
セシウムを効果的に除去する方法として注目されているのが、汚染された土壌に植物を植えて、根から汚染物質を吸収させる「ファイトレメディエーション」です。基本的に植物が土壌内の物質を吸収するときは、タンパク質を使います。例えば、セシウムを吸収するタンパク質とカドミウムを吸収するタンパク質は異なるので、それぞれに合致したタンパク質を植物内で発現させる必要があります。セシウムは植物の生育に欠かせないカリウムと元素の性質が似ているため、カリウムを吸収するタンパク質を発現させると、セシウムとカリウムを両方同時に吸収してしまいます。これにより、土壌のカリウムが枯渇してしまい、その土地で農業ができなくなってしまいます。なので、セシウム特異的輸送体タンパク質を見つける必要があるのです。
ひまわりを使ったファイトレメディエーション
研究の結果、セシウムだけを効果的に吸収する「ABCG33」と「ABCG37」という2種類のタンパク質が発見されました。酵母を使った実験でも、これらのタンパク質を発現させた場合にはセシウムの吸収量だけが増加し、その働きが証明されました。現在、ひまわりを使ったファイトレメディエーションを実現するべく研究が進んでいます。1年で成長するひまわりに「ABCG33」と「ABCG37」を過剰発現させ、そのひまわりを汚染された土壌に植えることで、効果的にセシウムの除去が可能になると期待されています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 農学部 植物生命科学科(令和7年度から農学部 生命科学科 分子生物機能学コース所属) 教授 ラーマン アビドゥール 先生
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