「奪う」と「盗む」はどう違う? ことばの「なぜ」を解明する研究

「奪う」と「盗む」はどう違う? ことばの「なぜ」を解明する研究

ドイツ語のhabenで表現できるもの

ドイツ語には、英語のhaveにあたるhaben(ハーベン)という動詞があります。通常は主語に「人」をとり、何らかの物を所有していることを表しますが、家のような「場所」を主語にすることも可能です。例えば、「その家には部屋が3つある」「その家には窓がたくさんある」「その家にはよい雰囲気がある」といった内容はhabenを使って表現できます。ただ、いつでも「場所」を主語にできるわけではなく、「その家には傘がある」「その家には靴がある」という内容を表すのにhabenを使うことはできません。なぜでしょうか。

譲渡可能か不可能か

Habenの主語が「場所」にあたる場合の目的語を調べると、あるルールが見えてきます。部屋、窓、雰囲気などは、家から切り離してほかの何か・誰かに譲ることができない「譲渡不可能」な物です。一方、傘や靴はその家に固有の物ではなく、ほかの何か・誰かに譲ることができます。つまり「譲渡可能」な物です。ここから、「場所」を主語にしたときのhabenは譲渡不可能な物だけを目的語にとるということがわかります。

「奪う」と「盗む」の使い分け

譲渡可能か不可能かという区別の表れは、ほかの言語にも見られます。例えば、日本語の「奪う」と「盗む」の使い分けがそうです。目的語が「お金」のような譲渡可能な物の場合は、「お金を奪う」とも「お金を盗む」とも言えます。しかし、「命」「理性」「個性」のように譲渡不可能な物が目的語の場合は、「奪う」しか使えません。「盗む」は譲渡可能な物だけを目的語にとる動詞なのです。
このように、一見すると何の関係もないように思える複数の言語同士でも、掘り下げてみると共通点があることがわかります。ある言語の表現にあてはまる特徴が、世界のさまざまな言語に共通する一般的なものなのだと明らかになることもよくあります。言語の仕組みをじっくり観察し、「なぜだろう」とモヤモヤしていた部分をスッキリさせることは、言語学に期待されている役割のひとつです。

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上智大学 外国語学部 ドイツ語学科 教授 高橋 亮介 先生

上智大学 外国語学部 ドイツ語学科 教授 高橋 亮介 先生

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言語学

メッセージ

外国語を学んだり使ったりして間違えたとき、落胆する必要はありません。むしろ、間違えたときこそ「なぜ、こういう言い方なのだろう」という素朴な疑問が得られるチャンスです。なじみのある母語についても、普段から使いこなせている分だけ、不思議に思うことは少ないかもしれませんが、ふとした言い間違いをきっかけとして「なぜ」に気づくことがあります。すぐには答えが見つからなくても、疑問に感じた点をじっくり養い、少しずつ掘り下げていけば、本格的な研究につながっていくでしょう。

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日本初のカトリック大学として開学し、創立当初から国際性豊かな大学として、外国語教育に重点を置いてきました。留学制度も充実しており、世界約80ヶ国に390校以上にも及ぶ交換留学・学術交流協定校があり、コロナ禍の2020年度、2021年度を除き、毎年約1,000人の学生が世界の様々な国や地域へ留学しています。また、少人数教育も本学の伝統のひとつです。教員と学生の距離が近く、また学生同士が率直に意見を交し合う、きわめて理想的な教育環境が整っています。他者を思いやり、社会に奉仕できる人材を育成します。