昔の日本人は、中国から伝わった書物をどうやって読んだのか?
日本語話者ならではの中国語の研究方法
日本語を話す私たちが中国語の研究に取り組む場合には、さまざまなやり方が考えられます。その中の一つとして、昔の日本人がどのようにして中国語を学び、中国から伝えられた文献をどうやって取り入れていったかを調べていくという方法があります。この研究方法であれば、私たちが持っている日本語の知識を生かせるので、中国語の研究でありながら、日本人ならではの成果を挙げることが期待できます。
日本に伝わり、翻訳された中国語の書物
『三国志演義』や『西遊記』、『水滸伝(すいこでん)』など、中国の明の時代に主に成立した小説は「白話小説(はくわしょうせつ)」と呼ばれ、当時の中国語の話し言葉で書かれているのが特徴です。これらの物語は、江戸時代に日本に伝わり、中国語を学んだ日本人学者によって日本語に翻訳されました。中国語から日本語に翻訳された当時の書物を調べると、日本語らしくない漢字の熟語が多く使われていることに気づきます。これは当時、中国語っぽいテイストを残した文章が世間でカッコイイとされていたからではないか、と考えられています。漢字には左右にルビが振られており、右側には漢字の読みが、左側には漢字の意味が書かれるという、とてもユニークな形式になっています。
言葉の意味のとらえ方の違いからわかること
これらの日本語訳には、時々、中国語の意味とのずれが含まれていることもあります。例えば、中国語で「軟殻鶏蛋」という言葉は、「軟らかい殻の卵」=「傷つきやすい人」という比喩ですが、当時の日本語訳には「ニヌキノタマゴ」という意味が併記されていました。「煮抜きの卵」とは関西地方で「ゆで卵」を指す言葉ですが、「ゆで卵」と「軟らかい殻の卵」とは、必ずしも一致しません。こうした言葉の意味のとらえ方の違いを研究していくと、当時の中国と日本の慣用句や比喩、俗語表現の違いがわかってくるのです。
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