農業は食を支える産業 貯蔵と流通の重要性

農業は食を支える産業 貯蔵と流通の重要性

農業で大切な「貯蔵」と「流通」

農業は「農作物を育てて収穫する」だけでは成り立ちません。収穫した農作物を貯蔵し、流通させて経済効果を生んではじめて「農業」という産業になります。大昔はその土地で採れたものを食べるという地産地消が当たり前でしたが、今は集約農業により、特定の産地で効率的に同じ農作物を大量生産し、それを需要の高い都市部などに運んで消費するのが一般的になっています。そのため農作物の貯蔵と流通は農業を研究する上でも重要な分野なのです。

桃が長持ちするのは?

農作物を流通させるために重要なのは、まず鮮度や品質の保持です。特に果物は収穫後に熟成して食べごろを迎えるため、貯蔵や輸送が難しいのです。その代表格が桃です。桃は果肉が柔らかく傷つきやすい上、熟すスピードも早い果物です。国内流通でも数日、海外輸送だと船や飛行機でさらに日数がかかるため、軟化させずに運ぶのがとても困難です。
桃は常温保存すると3日ほどで食べごろを迎えてしまうため、遠方へは輸送できません。しかし、冷やしすぎると低温障害を起こして味が落ちてしまいます。そこで10℃、5℃、0℃で貯蔵実験をしたところ、10℃では収穫後2週間で食べごろを迎え、5℃では低温障害を起こしました。0℃では2週間保存しても低温障害もなく、その後常温保存3日で食べごろとなりました。このことから、海外などへ海運コンテナを使って桃を輸出する場合は、0℃の温度帯での貯蔵が最適という結果を得ました。
このように、鮮度を保持しながら貯蔵し、輸送して消費者に届くまで品質を保ちロスを減らす技術を「ポストハーベスト」と呼びます。

栽培時の工夫も

一方で、桃の品種や栽培状況そのものを改良するアプローチもあります。貯蔵性に優れる品種の研究や収穫期間を長くするための品種改良など遺伝子レベルでの解析と、実際の農場での試験栽培を通じて、新品種や栽培方法の開発が進められています。
いずれも共通するのは、農業という産業に役立つ技術であるという点です。

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京都大学 農学部 大学院農学研究科 附属農場 教授 中野 龍平 先生

京都大学農学部 大学院農学研究科 附属農場 教授中野 龍平 先生

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農学、園芸科学

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メッセージ

農学といえば、農作物の品種改良や栽培方法の研究と思われがちですが、実は収穫物の品質を保持して消費者に届けるところまでを視野に入れた学問分野です。農学は、最終的にはその技術がどう社会活動に生かされるかを考えています。現代の私たちの食生活は、大規模な集約農業によって支えられています。また生産者にとっては、いかに効率的に利益を上げていくかも重要です。流通中のロスは大きな問題であり、流通にかかるエネルギーコストも問題です。大学での農学は、その視点を忘れずに実用化を見据える、社会に貢献する実学です。

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