光が回転する「ドーナツビーム」ってなんだ?

光が回転する「ドーナツビーム」ってなんだ?

光の性質を利用してドーナツビームを作る

光は均質な空間では直進すると思われがちですが、波としての性質をもつので「回折」という現象によって必ず拡散します。また物質が密なところでは伝わる速さが遅くなるので、場所によって密度が異なるとより密な方に曲がります。この性質を利用することで、回転しながら進む光、「ドーナツビーム」を作ることが可能です。ガラスに薄く透明なポリマーを塗って場所によって厚みを変えると、厚いところほど光が遅れて曲がるので、場所によって曲げる方向を変えると回転する光ができるのです。

物体を制御し大量の情報を送る

水が回りながら排水口に落ちていくとき中央に穴があくように、回転する光も中央に穴があいて「ドーナツビーム」になります。この光の回転運動は、コマが回り続けるように保存されます。さらに、物体に吸収されると物体の運動に変換されます。つまり、光を使って動力を生み出したり、モノの動きを制御できるのです。この性質を使うと、医療分野で細胞を操作したり、検査用チップの上で薬品をかくはんすることができます。
また光ファイバー通信では、従来はファイバー内の密度が高い「コア」に中央が明るい光を通していましたが、送信されるデータ量が増えるにしたがって、中心部の光が強くなりすぎる問題が出てきました。この解決策の一つとして、ドーナツビームを使う方法があります。コアを少し太くして、従来の光は中央を通し、その周りにドーナツビームを通すことで、送信するデータ量を増やすのです。

波と回転の合わせ技

ドーナツビームと回転する水はどう違うのでしょうか。ドーナツビームは波なので、回転しながら波として振動もしています。一周して元の位置に戻るまでにちょうど整数回振動すると、元の波と強めあって安定した回転になります。これは回転する水にはない性質ですが、超流動ヘリウムなどの特殊な液体と共通の性質です。安定したドーナツビームには整数との対応があるので、量子力学の原理を使った新しい情報技術に活用できると考えられています。

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電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 教授 宮本 洋子 先生

電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 教授 宮本 洋子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

量子光工学、応用光学、量子力学

メッセージ

光はまっすぐ進むと思われていますが、ちょっと工夫するとクルクル回したり、複雑な動きをさせたりできます。光にはこのような多様な可能性があり、医療分野、IT分野、計測機器とさまざまなところで応用技術が考えられるのです。
そういう光を自在に作って、いろいろなことに使ってみたら楽しいと思いませんか? また、光は量子力学の基本的な問題について実験するのに最適な素材であり、実験に合わせて理論の研究もどんどん発展しています。多彩な研究領域がある光に興味があれば、ぜひ一緒に研究しましょう。

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電気通信大学は、東京にある理工系国立大学で、「工学」と「理学」のうち、特に情報分野および理工分野を核とした教育研究を行っています。先端科学技術を支える全分野、例えば、情報、通信、電子、知能機械、ロボティクス、光科学、物理、量子、化学、物質、生命などの分野を網羅しています。社会で活躍する人材の育成をめざし、ものづくりに意欲を燃やす学生の期待に応える教育環境を提供します。