レーザーを使って宇宙で最も冷たい物質を作る研究

レーザーを使って宇宙で最も冷たい物質を作る研究

レーザーを当てると原子が冷える?

レーザー光とは、方向と位相がそろった人工的な光です。光はエネルギーを持っているので、レーザー光を当てると物質の温度は上がると考えるのが普通でしょう。しかし、レーザーをうまく利用すると温度を下げることができるのです。現在では世界中でいろいろな原子を冷やす実験が行われています。

レーザー冷却の方法

特定の原子は特定の波長の光を吸う性質があります。光はエネルギーと同時に運動量も持っているので、原子が光を吸ってエネルギーが上がれば、その反跳として運動量を受け取ります。つまり力を受けるということです。
さて、レーザー光の周波数を、その特定の周波数よりも少し低めにずらして、しかも左右から原子に当ててみます。音波でおなじみのドップラー効果は、波である光でも起こります。原子が右に動くときには右から来るレーザーがドップラー効果により周波数が上がり、その原子が光をより吸うようになり、輻射圧を強く受けます。すると原子は減速し、温度が下がります。左に動いた場合も同様です。四方八方からレーザーを当てると、あっという間に常温からマイクロケルビンのレベルまで温度を冷やすことができるのです。

レーザー冷却の限界を超える「蒸発冷却」

しかし、この方法には限界があります。もらったエネルギーが自然放出される際、その方向がランダムなため加熱効果をもたらすからです。
そこで、ここから「蒸発冷却」という方法を使います。磁場の入れ物に上記の原子を閉じ込め、入れ物の高さを少しずつ下げていきます。すると運動エネルギーの大きい原子から逃げていき、最後に最も冷えた原子が残ります。この方法で1マイクロケルビン以下(室温の10億分の1)の温度が実現できるのです。
レーザー冷却の研究は、2012年のノーベル物理学賞を受賞した研究にも利用されています。レーザー冷却されたイオンの周波数を測ることで、30cmの高さの違いを判定することができるのです。
このように、レーザー冷却はさまざまな応用が考えられる研究なのです。

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東京大学 教養学部 統合自然科学科 准教授 鳥井 寿夫 先生

東京大学 教養学部 統合自然科学科 准教授 鳥井 寿夫 先生

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光学、電磁気学、量子力学

メッセージ

私が学んだ海外の大学の研究室は、先生の部屋も含めてカギは共通で、ドアはいつも開かれていました。これはいつでも部屋に入ってきてディスカッションを始めてもいいというスタンスです。これは物理的なドアですが、心のドアも同様でした。あなたにも、常に心のドアを開けていてほしいと思います。
そして、たとえ身近なものでも、「これはなぜこうなっているんだろう?」という素朴な疑問を持ち続けてください。ばかばかしい疑問など世の中にはありません。素朴な好奇心は研究の原動力なのです。

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東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。