人工関節の耐用年数を40年に!
1960年代から使われている人工関節
人生100年といわれる時代ですが、そのうち元気に生きられる健康寿命は何歳まででしょうか。歳をとると足腰が弱くなるといわれますが、その原因のひとつが関節の機能低下です。まず軟骨が、そして骨がすり減ることで痛みや不具合が起きます。1960年代からは人工関節に置き換える治療が現在に近いかたちで行われ、1980年代には股関節を筆頭に、膝、ひじ、肩、手の指など体じゅうの関節に人工関節が使われるようになりました。
足りない人工関節の耐用年数
人工関節の耐用年数は一般的に20年ほどといわれています。現在の日本人の平均寿命が男性81歳、女性87歳だと考えると、60歳以上まで手術を待たないと、再手術が必要になります。しかし早い人では40代から関節機能が低下し、また病気やけがで人工関節へ置き換えるケースも少なくありません。
そこで人工関節の耐用年数をのばすための研究が機械工学分野でも進められています。人体に人工材料などを入れることによって起こる摩擦や摩耗、潤滑を研究する分野を「バイオトライボロジー」と呼び、その中で人工関節の研究も進められています。
工学の立場で医療に貢献
症例の多い人工股関節の置き換え手術では、人体に金属やセラミック、ポリエチレン素材を使った人工股関節を埋め込みます。長年使用していると、摩擦でポリエチレンが削れ、ごく小さな粉(摩耗粉)が発生します。これが生体反応を起こすと骨の再生を阻害して、人工股関節と骨のジョイント部分が緩み、不具合が起きます。そのため、どのように荷重をかけたら、どんな大きさの摩耗粉が発生するのか、体内での潤滑剤となる成分や素材の加工の違いによるデータなどを細かく分析します。
バイオトライボロジーは、医学の視点ではなく、工学の立場から医療に関わる分野です。そのため人工関節を機械としてとらえ、耐摩擦や稼働性を検証し、その結果を臨床現場や人工関節の開発メーカーなどにフィードバックして、機器・器具の改善や耐久性向上に役立てています。
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